2016/10/16

平成28年度 経済学部 海外(フィリピン)研修報告

こんにちは。経済学部経済学科の学長室ブログメンバーの藤本倫史です。
今日は早川達二教授が、学生の海外(フィリピン)研修について報告します。

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目的地: フィリピン(マニラ近郊)


実施期間: 828日(日)出国、93日(土)帰国


実施の目的: 6%以上の高い経済成長率を維持しているフィリピンの現状を実地に視察する。アジア開発銀行、世界銀行、JICA、諸企業、フィリピン大学などの訪問を通じて、本年7月に開始する新政権下のフィリピン経済の構造と課題、直接投資の現状と投資環境、開発援助の実態と貧困削減への成果などについて全般的な理解を深める。製造業と、好調なサービス産業の実態を観察することで、新興国経済の発展の中身を考察していく。日比経済連携協定の存在のために、日本企業のフィリピンへの関心は強いので、こうした現場を実際に見ることの教育的価値は高い。事前学習と研修に参加してレポートを提出した学生には規定の単位が与えられる。
宿泊先: Herald SuitesMakati CityPhilippines

旅行費用: 参加学生の旅費個人負担は12万円程度


訪問先:アジア開発銀行、世界銀行、JICA、フィリピン大学、企業、文化研修(歴史理解)

引率教員: 経済学部経済学科教授 早川達二

参加学生: 経済学研究科修士課程の2年生2名、経済学部の4年生2名、3年生1
828() 行程 岡山空港から韓国インチョン空港経由でマニラへ


今回で通算3回目となるフィリピン研修が始まった。定刻に岡山空港を出発し、韓国のインチョン空港へは午前11時半頃に到着した。マニラ発は午後8時頃なので長い待ち時間があり、これを利用して、各自広い空港を「散策」した。日本円が使えるのが便利である。空港には無料で使えるシャワーや横になれるソファーなどもあることがわかった。
マニラのアキノ空港へは深夜の到着となった。このところ、空港ターミナルは年々少しずつ整備、改善が進んでいるようだ。迎えのマイクロバスに乗り込み、マニラの中心部マカティに位置するホテルに全員無事到着した。皆インチョン空港でリラックスできたので、それほど疲れはないようだ。


829() 行程 NEC Philippines、アジア開発銀行(ADB
NEC Philippines
今年最初の訪問先は、マカティにあるホテルからあまり遠くないNEC Philippinesの事務所である。今日は祝日なので、運良く交通渋滞が少ない。副社長の澤田さんが大変親切に対応して下さった。NEC1967年にフィリピン事務所を設立して、日本のODAに関連した業務を開始した。NECの現在の重点分野はICT技術を軸とした空港設備、通信用の海底ケーブルなどの社会インフラであり、フィリピンのような発展途上国では実に多くのニーズがある。日本と同様に自然災害の多いフィリピンで、JICA主導の日本のODA事業である広域防災システムの開発プロジェクトでは中心的な役割を果たしている。他方、商業インフラではコンビニのPOSシステムなどを得意としている。日本への輸出も多くて、好調なフィリピンから日本への輸出の一部を占めている。澤田さんはフィリピン人社員は勤勉だという感想を持たれている。


 

(アジア開発銀行)

アジア開発銀行(ADB)の本部はマカティ市の隣のマンダルーヨン市に位置している。祝日の比較的少ない交通量に助けられて、問題なく移動できた。運良くADBは今日休みではない。

最初にカフェテリアに入り、私の元同僚の方々と一緒に昼食をとり、皆で交流を行った。シニア・エコノミストの谷口さん、萩原さん、田中さんが参加して下さった。参加学生達は大いに刺激を受け、日本人スタッフの方々は普段あまり話す機会のない現役の学生達と交流しリフレッシュできたようだ。萩原さんは学生に「日本人に見えませんね」と言われてしまって、複雑な気持ちになったそうだ。

中庭で記念撮影をした後で、ADBが用意してくれたプログラムでは、まず Results Management Specialistである池田さんがADBの概要とスタッフになるための準備などについて丁寧に説明された。池田さんはその昔学生時代に横浜スタジアムに通って広島カープを熱心に応援されていたそうで、今年の好調ぶりにとても喜んでおられた。続いて、Transport SpecialistであるNana Soetantriさんが、ADBの運輸・交通セクターにおける活動一般について詳しく解説して下さった。質疑応答の時間、大都市マニラの輸送・交通事情がなぜ東京のようにはなっていないのかをめぐり、様々な社会的な要因も含めて、大変興味深い議論となった。Soetantriさんはオーストラリア育ちのインドネシア人で、開発に関する考え方にはとても深いものがあって、一同話に引きつけられた。次に、広いADB本部の建物の中をFacilities SpecialistMirko Rizzutoさんと一緒に少し歩いた。窓から屋上にある多くのソーラーパネルを見学できた。

最後に、長谷川理事と、JICAからADBへ御出向中の福田アドバイザーを皆で表敬訪問した。理事はADBなどの国際金融機関の役割をわかりやすく解説して下さった。話題のAIIBとの関係についてもいろいろと議論があり、一同知見を深めることができた。両銀行によるプロジェクトの協調融資は将来続いていく見通しのようである。ADBは今年創立50周年を迎え、来年記念総会が横浜で開催される予定である。

ADBを出る前に、私の元同僚であるフィリピン人スタッフ3人が会いに来てくれて、しばし交流の時間を持つことができた。

 
 
 
 
 
 
 


8月30日(火) 行程 JICA、世界銀行

(JICA)

マカティのホテルから程近いところにあるJICA事務所を訪れる。今日は平日なので、交通渋滞のために移動速度が昨日よりはるかに遅い。

JICAによるフィリピン支援の取り組みについて浅田NGOコーディネーターから丁寧な説明を頂いた。JICAの支援は技術支援、有償資金援助、無償資金援助、海外青年協力隊などからなる。運輸・交通インフラはフィリピンでの重点分野の一つである。良い農産物が地方で収穫されても、それを首尾よく運ぶためのインフラが未整備であることも農業の生産性の低さにつながるとの指摘は興味深い。

このほどアジアのノーベル平和賞と呼ばれる“マグサイサイ賞”(マグサイサイはフィリピンの昔の大統領の名前)がJICAが管轄する青年海外協力隊に授与されることが決まったそうで、浅田さんは大変喜んでおられた。参加学生達は準備が十分だったのか、とても多くの質問をして議論が大いに盛り上がった。




(世界銀行)

マカティ市の隣のタギグ市のFort Bonifacioに向かう。広大な軍の跡地を再開発したこの地域は大変近代的で、マニラを初めて訪れた参加学生達はこの地区の発展ぶりを肌で実感することができた。

今年は、Research AnalystのKevin Cruzさん、Louie Limkinさんと会合を持った。世界銀行フィリピン事務所は年に2回、詳細な経済分析レポートを発行している。今年4月に出たレポートについて丁寧な説明があり、一同フィリピン経済、開発課題について深く理解をすることができた。好調な経済の維持と多くの開発課題解決に向けて、7月から始まった新政権に対する期待は高い。

Kevin Cruzさんは、金曜日に訪問予定のフィリピン大学経済学部出身であることがわかり、我々のフィリピン大学に対する関心が更に高まった。



 
 





8月31日(水) 行程 キャステム、Volenday

(キャステム)

マニラ中心部のマカティから南西に進み、福山に本社のあるキャステムの工場のあるカビテ地域まで行くのに海岸地域を走る。キャステムでは最初に、同社のフィリピンでの操業について、上杉工場長から説明があった。キャステムはタイでも活発に操業しているので、タイについても少し説明を頂いた。更には、アメリカ市場を意識して、キャステムはこのほど南米コロンビアでも工場を建設した。しかし今はまだ電気がないために操業を開始できないでいるという、典型的な海外進出における苦労も教えて下さった。キャステムはフィリピンで様々な一般産業部品を製造している。すべてが売れないという状況は生まれにくく、不景気にも強い体制となっている。労働力を活かして臨機応変に生産を調整できている。

説明の後で「ロストワックス精密鋳造」部品の生産現場を見学させて頂いた。ロウのパーツを複数つなげた「ツリー」を作成する様子を一同見学する中、仕事のきつさ、暑さは一目瞭然である。最後に、日本食弁当を一緒に頂きながら、日本人、フィリピン人社員の方々の興味深いお話、苦労話を伺った。日本人社員はマカティから車で通勤される。朝は比較的順調に工場に到着できるが、帰りの帰宅時間は交通渋滞のため、日によってかなりの違いがあるそうだ。






Volenday

Volendayは、IT、データベースの活用などにより、採用作業サポート、人事戦略、ITサービスなどの企業のbusiness process outsourcingBPO)を行う米国系企業であり、優遇措置のあるPEZA(経済特別区)の枠組みを活用している。ヒューストンとマニラで事業を行ってきたが、Julio Endaraディレクターによると、今後はヒューストンを閉鎖してマニラだけで活動していくとのことである。これもまた、フィリピン経済、とりわけそのサービス産業の好調ぶりを示す一つのエピソードであろう。

英語を話す若い豊富な労働力を背景に、BPOはフィリピンの重要な成長産業の一つである。Endaraディレクターは、Volendayの全体的な業務内容を説明して下さった。業務の例として、夜間にコンピューターを貸したり、スペインのNGOにオフィス空間の利用を提供するなどのサービスも行っている。Volendayの得意分野の一つは、豊富なデータベースを基にした会社の求人のためのサポート提供であり、会社が条件を示してくれればそれに見合う人材を探してくれる。Endaraディレクターはフィリピン人スタッフは皆真面目な性格であると指摘された。
 

 








9月1日(木) 行程 豊ファインパック、東洋シート、Mall of Asia

(豊ファインパック)

高速道路を南へ進み、サンタロサにある広い工業団地へと向かった。ここにある豊ファインパックは本社が福井県の企業であり、2013年からフィリピンで操業している。このほど日本から新たに岩ケ谷マネージャーが加わり、現在計5名の人員と外注ドライバー1名の体制をとっている。オペレーターは2名いるが、GMの根津さんは今後もう1名増やしたい希望を持たれている。

根津さんと岩ケ谷さんが、現況をまず説明された。若い労働力が豊富であることは、フィリピン進出を決めた重要な要因であった。英語で比較的意思疎通が容易であることも便利である。新政権下で、もしも雇用制度が正社員化重視の方向にシフトすると、派遣社員を活用している日系の企業にとってコストが上昇する要因になるかもしれないとの指摘もあった。今年もまた順調に会社が成長しているのを観察できたのはとても嬉しい。仕事に関して根津さんは、伝える力の大切さを特に強調された。日系企業は技術的なことを教えるのがうまいのが強みである。それは言語が上手かどうかとは関係がないそうだ。実際、昨日訪問したキャステムでは英語が得意という日本人社員は少なかったが、日常生活はともかくも仕事では問題がないと伺った。

9月2日(金) 行程 イントラムロス、フィリピン大学、UP Town Center

(イントラムロス)

マニラ旧市街にあるイントラムロス地区へ向かう。ここは、300年間以上続いたスペインの植民地支配時代に作られた城塞都市である。フィリピン独立運動の英雄ホセ・リサルの記念公園とマニラ大聖堂を訪問し、お土産店にも入った。このあたりではスペイン統治時代の雰囲気が強く感じられる。この歴史のため、アジアの中でフィリピンは、むしろ中南米との共通点も多い、特徴的な国になっている。





(フィリピン大学)

 フィリピン大学経済学部はマニラの東の方、活気のあるQuezon Cityに位置する。運良く交通渋滞は予想以下で、大学の近くのレストランでゆっくりと昼食をとることができた。ただし、いざ出る際の勘定の支払いに5分以上かかってしまうのは、いかにもフィリピンらしい。

 フィリピン大学はフィリピンの最大、最古の伝統ある国立大学である。キャンパスは広くて、やっとマニラにも緑の公園があるという感動を持てた。フィリピン大学経済学部では学部長のSolon教授を含む4人の先生方と活発な議論をする機会に恵まれた。フィリピンの経済、開発課題などについて広範な意見交換が展開された。新大統領は治安対策として麻薬の取締に集中していて、これは予算面でも予想外の影響が出るのではないかという懸念が聞かれた。また新大統領には州制度の導入を検討したい希望があるとの指摘があり、フィリピン大学の先生方はこの考えには反対である。提案のように計11の州ができた場合、州の間で経済的に強いところと弱いところが出てきて結局うまくいかないだろうという心配である。

 Arcenas准教授は親切にも経済学部の図書館などの施設を案内して下さった。経済学部はフィリピン大学において有力学部であり、この図書館は大学のメインの図書館よりも立派であると聞いて驚いた。Arcenas准教授は、世界銀行で我々がお世話になったKevin Cruzさんをかつて指導されたそうで、Cruzさんの活躍ぶりをお知らせしたところ大変喜ばれていた。
 


9月3日(土) 行程 マニラから韓国インチョン空港経由で岡山空港へ

帰りの飛行機便はインチョン空港行きも岡山空港行きも順調で、予定の時刻に岡山空港に到着できた。

皆、フィリピンという国の実情を見て、多くを身近に学び、感じることができた。それは、データに依存する事前学習をはるかに超えた深い理解につながる。今回は本当に幸運にも雨が少なくて助かった。交通渋滞は依然改善していないが、大雨による更なる混乱は免れた。この研修の実現のためにお世話になった多くの方々に深く感謝したい。参加学生達はとても熱心で積極的だったので、訪問先の方々は皆大変満足されていた。今回の参加メンバーから将来、フィリピンで働く人が出るかもしれない。

今では経済などの諸データは以前よりもはるかに容易に豊富に入手でき、それを通じてフィリピンのような国の様子を理解することはある程度は可能である。しかしながら、やはりデータだけでは一つの国の本当の実情はわからない。世界的にも高い経済成長が続く中での格差、極端な貧困。先進国のような顔も持つマニラ。百聞は一見にしかず。やはり興味を持った場所を自分の目で見てみることの重要性を学生たちは認識した。今後もこの研修を深化させつつ継続していきたい。
 


学長から一言:本当に「百聞は一見にしかず」ですねッ!!アジア開発銀行にいた早川教授の強みのしっかり生かされた研修でした!!!研修先の関係者の皆様、ありがとうございました!