2016/11/02

スマートシステム学科 Japan Innovation Challenge 2016 への取り組み

こんにちは、工学部スマートシステム学科フェイスブックはこちら)、ブログメンバーの伍賀です。

皆さん、少し前なのですが10月25日(火)朝のNHKニュース「おはよう日本」での7時台の特集をご覧になられましたか? そこではマルチコプター(通称ドローン)を用いた山岳救助をテーマにした競技会の様子が紹介されていました。この競技会は10月16日~21日に北海道の上士幌町で開催された「Japan Innovation Challenge 2016」というもので、今年が第一回目の開催でした。

実は、この大会にスマートシステム学科の沖俊任准教授が参加されましたので、その様子をリポートしてもらいました。

スマートシステム学科では、地上ロボットセンサー群と小型人工衛星を用いた土砂災害予測システムの開発を行っていますが、地上付近を自在に飛行できるマルチコプターの活用も有効ではないかと考えています。そこで、沖准教授は実環境を用いた今回の競技会を通じて地盤災害予測応用への可能性と課題を探ることができないかと考え、親交の深いマルチコプター研究の第一人者、徳島大学の三輪昌史准教授、レスキューロボットコンテストの牽引者の一人である愛知工業大学の奥川雅之准教授に声を掛け、チーム結成し参加することになったそうです。モノがインターネットで繋がるIoTの世の中になってきましたが、やはり、人と人とのネットワークは重要ですね。

それでは、沖先生、よろしくお願い致します。

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Japan Innovation Challenge 2016 に参加


Japan Innovation Challenge 2016 は、「ロボットによる山での遭難者救助」をテーマとしたロボットコンテストです。ロボットコンテストではありますが、救助対象は実際の大人サイズのマネキンで、これを実際の山中から発見・救助してくるもので日本初の試みです。コンテストの課題は、遭難者に見立てたマネキンを発見し位置情報と写真を取得する「発見」、レスキューキットをマネキンの周囲3m以内まで運ぶ「駆付」、マネキンを収容しスタート地点から10m以内まで搬送する「救助」があり、それぞれの課題で優劣を競います。課題の達成方法は参加者が工夫するので、マルチコプターや地上移動ロボットなど様々なアプローチが考えられます。
 もちろんこれらのロボットが実際に必要となることがないことが一番なのですが、2次遭難が予想される困難な救助活動においてもロボットの活躍が期待されるのです。山中でのロボットの移動といえば、まさに、スマートシステム学科が取り組んでいる課題です(補足1)。そこで、今後、研究成果の応用・発表の場として適当か否か、さらに、コンテスト内容と他チームの動向など情報収集のため、実際にこのコンテストに参加してみました。

会期は10月17日(月)から21日(金)でしたが、都合で17・18日の両日のみ参加しました。チーム構成は、徳島大学・愛知工業大学・福山大学の合同チームです。徳島大学のマルチコプターを用い、「発見」と「駆付」にトライしました。ちなみに、他のチームも含めて「救出」に挑戦したチームはありません。

 競技会場は北海道上士幌町の町有林。福山駅→(バス)→広島空港→(飛行機)→新千歳空港→(長距離バス)→帯広でメンバーと合流してさらに1時間強の移動です。参加した日は風があったものの天候がよく幸いでした。19日以降は天候が悪化し、中止した日もあったようです。 
 会場となった上士幌町の場所はこのの辺り

 マネキン(遭難者)は、この奥の山中数百メートルのどこか(今回は難易度を調整して上空からは識別できる位置)に配置してあり地上からは全く見えません。
テスト飛行中にテントの壁にマルチコプターからの映像を投影しています

各チームにテントが割り当てられ、そのなかで壁面にマルチコプターからの映像をプロジェクターで投影してみました。前日のテスト飛行時の映像でも地上の様子はよくわかりません。

 参加チームのほとんどはマルチコプターでの上空からのアプローチでした。当チームも2種類のマルチコプター(徳島大学所有)で参加です。
「発見」で用いた小型マルチコプター(上側)と「駆付」で用いた大型マルチコプター
パイロットは徳島大学の三輪昌史准教授

ちなみに人間の目では、飛んでいるマルチコプターは、下の写真のように点にしか見えません。 

 地上からの挑戦は、日本興業大学が唯一でした。このロボットも残念ながら十分な成果を上げることはできなかったようです。
 日本工業大学のロボット

実際、競技エリア付近には写真のように急傾斜・下草・小川・礫・倒木などがあり、容易にロボットの移動を受け付けません。
 競技エリア内は入れないので、その付近の様子

 参加したマルチコプターは目視での操縦のほか、GPSを利用した自動操縦ができるものでした。さらに、映像もリアルタイムで送信するとともに、内蔵メモリに録画するものでした。リアルタイムで画像がチェックできれば発見も早く怪しい場所の重点探査も容易なのですが、録画の時はマルチコプターが戻ってきた後に再生して解析し怪しい場所に改めて飛行させることとなり時間がかかります。しかし競技は同時にたくさんのマルチコプターが飛び、そのため、無線通信が途切れやすく自動操縦と録画の組み合わせが多かったようです。私たちのチームも、初日に自動操縦と録画で挑戦しましたが、エリアも広く、発見には至りませんでした。
 レスキューキットを運ぶマルチコプター

 今回のマネキンは発熱体が内蔵してあり体温が再現されています。そのため、私たちのチームには持ち合わせがなかったのですが、熱画像カメラが効果を発揮したようです。写真のように、周囲より高温部を赤く表示できるため発見が比較的容易になりそうです。しかし実際は、二日目は天気が良かったため時間が経つといろいろな場所が日差しで暖められて、マネキンとの区別が困難となっていました。
マルチコプターに搭載した熱画像カメラの映像。高温部は赤く表示されている。

まとめ

今回の参加を通して、次のことが確認できました。
  • ロボットを山中での救助活動に用いるのは思った以上に困難である。
  • マルチコプターからの映像から目視で探査するには相当の集中力が必要で、画像処理などの援用が求められる。
  • マルチコプターは有効だが、自動操縦と航続時間の改善が必要。
  • 無人飛行機にはマルチコプターの他に全翼機でも参加もあり、航続時間で有利なことから機能に応じて両方使用することも効果的。
  • 電波法による制限もあり、長距離通信と高速データ転送を兼ね備えた方法の検討が必要。
  • 地上からのアプローチには課題も多いが、上空より運べる物資も多いため、継続して検討が必要。
  • 山中を移動する技術と通信について、学科で進めている「土砂災害予測システム」との共通課題も多く、「土砂災害予測システム」における成果の実山中での検証と応用の場としてJapan Innovation Challengeへの参加は検討に値する。 

今回は競技会の案内発表から開催まで期間が短かったのですが、Japan Innovation Challengeは来年以降も継続を検討しているようです。継続して参加を検討してみたいと考えています。

(補足)

 山中でのロボットの移動といえば、スマートシステム学科が進めている研究プロジェクト「小型人工衛星と高機能センサ群を用いたセンサネットワークによる土砂災害予測システムの研究」における山中での移動ロボットや、構造・材料開発研究センターの研究プロジェクト「自然災害による被害の低減技術の確立と被災後ケアに関する研究」の「災害救助支援システムにおける動作・制御系の開発」で検討したロボットが活躍できそうです。


学長から一言:用途に合った賢いロボットを作るには、用途に合わせて賢く考える人間の知恵がもっともっと必要ですねッ!スマートシステム学科、がんばって!!!