こんにちは、ブログスタッフの生物工学科 佐藤です。
今日は、グリーンサイエンス研究センターで新しく立ち上がったプロジェクトについて紹介したいと思います。若手を中心に2つのチームがありますが(http://web.fukuyama-u.ac.jp/green/htmls/project.html)、今日は、そのうち、生命工学部と薬学部で協力して行っている、「瀬戸内の里山・里海における生態系機能の解明に向けた研究拠点の形成」について紹介します。薬学部のプロジェクトについては、別途、本ブログで紹介される予定です(紹介されました!)。
メンバー
佐藤淳(生命工学部 生物工学科・准教授・動物生態遺伝学)
渡辺伸一(生命工学部 海洋生物科学科・准教授・動物行動生態学)
阪本憲司(生命工学部 海洋生物科学科・准教授・魚類生態遺伝学)
山岸幸正(生命工学部 海洋生物科学科・講師・藻類系統分類学)
広岡和丈(生命工学部 生物工学科・准教授・微生物ゲノム科学)
北口博隆(生命工学部 海洋生物科学科・准教授・微生物生態学)
田淵紀彦(薬学部 薬学科・准教授・病原微生物学)
プロジェクトの概要
私たちのいる福山は瀬戸内のど真ん中にあります。その瀬戸内は、人と山と海が非常に近いのが特徴です(http://blog.fuext.fukuyama-u.ac.jp/2014/06/blog-post_17.html)。つまり、自然に対する人の影響が大きな場所と言うことができます。実際に、これまで森林伐採、干潟減少、藻場減少など人の活動が原因となった多くの自然環境の劣化が起きてきました。しかし逆に考えると、瀬戸内は、人と自然との共生を考えるのに適した場所でもあり、そして考えるべき場所でもあるのです。こうした瀬戸内で自然共生社会のモデルを作りたいというのがプロジェクトの目標です。達成のための一つの手法として、里山と里海に注目しています。
自然共生社会は、我が国の環境政策の3本柱の一つで、低炭素社会、循環社会に加えて、構築すべき社会の一つとされています。そして、里山と里海という視点から生物多様性を保全することが、自然共生社会の構築にとって、特に重要であると言われています。
里山と里海とは、日本の伝統的な暮らしが営まれてきた場所です。人の住む集落を中心に、雑木林や田畑など様々な生態系が複合的に存在することで、豊かな生物多様性が維持されている場所として知られています。私たちは、豊かな生物多様性から生態系サービスという形で様々な恵みを享受しています。したがって、里山と里海は、自然との共生を実現するツールとして、注目が集まっています。
しかし、私たちは、里山と里海を本当に理解しているでしょうか?里山と里海は様々な生態系が複雑に絡み合って構成されています。ある生き物に着目したとしても、時と場所が異なれば、異なる生態系で異なる生物との相互作用をもって暮らしています。このような生態系の中での生物間相互作用ネットワークを明らかにしなければ、人の活動の影響も評価できません。つまり、里山と里海の生物多様性の保全は難しいと言わざるを得ないのです。
そこで、私たちは、瀬戸内の里山と里海を構成する生態系の中で生物間相互作用ネットワークの一端を解明し、人の活動の影響を評価できるモデルを構築しようと考えています。福山大学には、意外にも(?)こうした問題に取り組むことのできる研究者が多いのです。今が、このプロジェクトを始める最適な時期だと思います。
例えば、私(佐藤)は、DNAバーコーディングという手法を用いて、里山に生息する野生の哺乳類の糞の内容を調べることで、食物網(食物連鎖のネットワーク)を網羅的に解明する研究を行います。
海洋生物科学科の渡辺伸一 准教授は、データロガーなどの機器を用いて、直接観察の難しい動物の行動を記録し、瀬戸内の動物たちが、いつどこで何をしているのかを明らかにする研究を行います。
海洋生物科学科の阪本憲司 准教授は、ミトコンドリアDNAの多型を分析することで、減少しつつある瀬戸内の干潟を代表するトビハゼの集団遺伝構造を調べ、人の活動が干潟生態系に与える影響を明らかにする研究を行います。
海洋生物科学科の山岸幸正 講師は、備後地方および芸予諸島周辺の瀬戸内海域の藻場を研究の場とします。藻場の構成種を網羅的に同定し、その構成種と藻場を生息の場とする魚類相との関係を探ることで、生物多様性を維持するメカニズムに迫ります。
生物工学科の広岡和丈 准教授は、土壌細菌である枯草菌と植物との間で交わされている物質のやり取りを転写制御レベルで明らかにすることで、相利共生メカニズムを解明する研究を行います。
海洋生物科学科の北口博隆 准教授は、赤潮原因藻を殺滅する細菌の探索とその機能の解析を行います。赤潮の被害はこれまでに瀬戸内海で頻繁に報告されています。その赤潮の原因である植物プランクトンを栄養源としている細菌に関する研究は、赤潮防除に役立つと考えられます。
薬学部の田淵紀彦 准教授は、里山生態系において、人獣共通感染症の原因微生物を媒介するとして知られるマダニと、アカネズミ等の小型哺乳類との寄生・宿主関係を明らかにするとともに、特定された微生物の病原性に関する免疫学的な解析を行うことで、人の健康への影響を調査する研究を行います。
以上のような研究を瀬戸内で行うことは必須だと思います。私たちが行わなければ、誰かが行うでしょう。しかし、このメンバーで織りなす研究は、きっと他では行うことのできない独自のものになるのではないかと思っています。是非、成果が得られることを期待していてください。寛大にも次世代に期待してくださっている福山大学の皆さんにも恩返ししたいです。
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本プロジェクトに関連してセミナーが開催されます。
里山研究の大家の広島大学 中越信和先生をお招きし、講演会を行います。
要旨からは、理系にとどまらない幅広い共同研究が必要な分野であることがわかります。生命工学部と薬学部だけではなく、是非、多くの学部の皆様にもご参加いただき、活発な議論をお願いできれば幸いです。そして多くの大学院生の参加をお待ちしております。
福山市農林水産課、環境保全課からもご参加いただきますので、福山市が抱える問題についても議論できればと考えております。
第34回 グリーンサイエンスセミナー
日 時: 2016年 1月 8日(金) 15:00~17:00
場 所: 生物工学科17号館2階講義室(1721)←28号館から変更になりました(1/6)
演 題: 『里山と里山文化景観の保全』
講演者: 中越 信和 教授(広島大学大学院国際協力研究科)
世話人: 佐藤 淳 (生命工学部生物工学科、内線4624)
要 旨:http://www.fukuyama-u.ac.jp/info/event/entry-3107.html
グリーンサイエンス研究センターHP
http://web.fukuyama-u.ac.jp/green/htmls/event.html
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学長から一言:地域に根ざした教育と研究を行い、地域に有為な人材を送り出そうという福山大学にぴったりの研究ですねッ。。。しかも地球規模で世界につながります。。。高校生の皆さん、一緒に学びませんか!!!