2014/06/17

この地で何ができるか?

こんにちは。ブログスタッフの生物工学科 佐藤です。

この地で何ができるか? 最近、こんな疑問が頭から離れません。私は北海道で生まれ育ちましたので瀬戸内については(も?)わからないことだらけです。ですので、しっかりと学ぶ必要があるのです。少し整理してみると、福山大学は非常に魅力的な場所にあることがわかります。

瀬戸内海辞典(北川建次ら編集2007)を読んでみると、瀬戸内海沿岸の市は東西にほぼ等間隔に存在すると書かれています。そうかぁと思い、地図で見ると、なんとなくそのように見えます。2014年現在で、下関市から瀬戸内海沿岸の市を数えていくと福山市は17番目の市で、大阪市から数えると18番目の市であることがわかります。市と市の間が等間隔ならば、福山市は瀬戸内地域の東西のちょうど真ん中にあるということになります。地図で見てもほぼど真ん中ですね(下図)。それゆえ、私は福山大学が瀬戸内地域の研究を先導することのできる素晴らしい地理的条件を満たしていると考えています。では瀬戸内地域の特徴とは?
福山大学は瀬戸内地域の中心にある
瀬戸内地域においては山と海が非常に近いのが特徴です。それらの間の狭い空間に人が生活しているわけです。中国山地は低標高で傾斜がなだらかな山々から構成され、また、瀬戸内海は波が低く穏やかな海ですので、共に人が容易に接近することができます。従って、瀬戸内地域では、歴史的に、人の生活圏と山と海とのつながりが他地域よりも深かったと想像します。この人と自然との距離が近い瀬戸内地域こそが、人と自然との“共生”について考えるための最適な場であるとみなすことが出来ると思います。
人と海の恵み(うつみ大漁祭り2014)
温暖・晴天・少雨も瀬戸内地域の特徴です。特に、福山市は全国的に見ても晴天の日が多く、雨の少ない街です。冬に大陸から吹く風は中国山地にさえぎられ、夏に太平洋から吹く風は四国山地にさえぎられることで、間に挟まれた瀬戸内地域は少雨となります。温暖・晴天・少雨により、日照りが多く、しばしば水不足が引き起こされますが、瀬戸内地域には多くのため池があり、そのため池が農業における水不足を解消してきました。広島県にはため池2万個以上もあると言われ、その数は全国2位の多さです(1位は兵庫県)。この適度な乾燥(少雨)という特徴を活かして、瀬戸内地域では柑橘類やブドウの栽培などが盛んに行われてきました。
福山市 瀬戸葡萄園のブドウ
そしてもう一つ、他地域には類をみない瀬戸内地域の特徴は瀬戸内海の美しい島嶼の景観でしょう。福山大学からしまなみ海道の入口まで車で約10分、芸予諸島を抜けて四国まで1時間強でたどり着くことができます。このような珍しい多島海構造を容易に研究できるのも福山大学の大きな魅力です。島は生物多様性の盛衰についてのヒントを提供してくれる場所であると考えられており、島の生物の研究は人と自然との共生を探る上でも重要な知見を提供してくれそうです。
向島から本州方面を望む
さて、福山大学は瀬戸内地域の中心にあり、その瀬戸内地域は、1.人と山と海とのつながりが深く、2.温暖・晴天・少雨の気候を持ち、そして、3.美しい多島海を抱えるという特徴を持っていることを説明しました。生物工学科ではこの瀬戸内地域の特色を最大限に活かした教育と研究を目指しています。

1については、“里山”が人と自然との共生を可能にする一つの方法であると考えられます。里山とは人の手が適度に加えられた半自然のことで、「樹林・草原・水路・水田・ため池など、異なる性質の生態系が組み合わさった複合生態系」とも言われています(さとやま 鷲谷いづみ著2011)。複数の生態系があるため、それぞれの生態系に生きる生物が集合することで里山の生物多様性は高くなります。また、トンボやカエルなど複数の生態系(水田と草原など)が必要な生物の生息も可能となり、ますます生物多様性が高まります。私たちが自然の恵み(生態系サービス)を得るためには、健全な生態系があることが前提ですが、その健全な生態系は生物多様性で支えられています。生物工学科では、キャンパス内に広がる“生きもの賑わう里山”において、畑を耕し、稲を植え、生物多様性を知ることから学びます。
 
2については、瀬戸内地域の雨の少ない気候を活かして、福山市では沼隈を筆頭にブドウの生産が盛んです。生物工学科には、酵母などの微生物に精通した教員が多く、従来醗酵“に力を入れてきました。この二つの力を融合することで、オリジナルのワインを作ることが出来るではないですか。現在は福山市の瀬戸葡萄園を借り、ブドウを育てておりますが、生物工学科17号館側の通称バイオファームにもブドウ畑を設置し、学内でもブドウの栽培を行う予定です。近い将来、里山発、福山大学オリジナルワインが出来ることでしょう!
瀬戸葡萄園で「ブドウの枝の誘引」
3については、瀬戸内海島嶼の生物を調査することで、生物多様性保全に関する知見を得ることが出来ます。動物の絶滅の大半は島で起きています。その理由の一つに遺伝的要因が絡んでいると考えられています。現在は第6の大量絶滅の時代と呼ばれており、一説では1年間に4万種が絶滅しているとのことです。これらの絶滅は人による野生生物の生息地の破壊が大きく影響しています。このような絶滅の要因に関する知見は人と自然との共生を考えるうえでも重要です。今年は学生たちと一緒に大三島、伯方島、大島にフィールド調査に行き、ネズミを捕獲してきました(許可取得済み)。島のネズミの生態や遺伝的組成を知ることで、絶滅のしやすさを評価できるのではないかと考えています。今年の4年生が頑張ってきっと結論を出してくれることでしょう(←プレッシャー)。調査のついでに見た瀬戸内海の景観はほんとうに素晴らしかったです!学生の皆さんには、学生時代に是非一度は見に行ってほしいものです。
大三島から大横島を望む
伯方島から鵜島と大島を望む

大島から四国を望む(来島海峡)
長くなってしまいました。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。結局、何が言いたかったかというと、地域の特色を活かした、福山大学でしかできない面白い教育と研究ができる!ということです。地域の題材を使って、特色ある教育・研究を行い、それを地域の外に発信し、そしてポジティブな反応があった時が本当の地域貢献であると思います。サイエンスはどこででもできます。問題は見つける目があるかどうかです。人と自然との境界にある28号館にひょっこり現れたテンちゃんにもひょっとして人と自然との共生の鍵が隠されているかもしれません。てんちゃん、教えて。

やーだよー 2014.06.14



学長から一言:すばらしい写真をありがとうございました。。。他の学部・学科を含め、瀬戸内、備後に根ざした教育と研究に力を入れている福山大学にご期待あれ!!