2016/01/27

グリーンサイエンス研究センター (脂質代謝プロジェクト)

こんにちは、学長室ブログスタッフの薬学部の “ M ” です。

今日は、福山大学グリーンサイエンス研究センターで新しく立ち上がったプロジェクトについて紹介したいと思います。 現在、若手教員を中心とした2つのチームがありますが、今日は、薬学部メンバーで構成されているプロジェクト「生活習慣病の新たな治療方法の開発を目指した脂質輸送と細胞機能の関連性の解明」について、代表である薬学部の上敷領 淳准教授に記事を書いていただきましたので、紹介します! (もうひとつのプロジェクト「瀬戸内の里山・里海における生態系機能の解明に向けた研究拠点の形成」については、以前の記事をご覧ください!→ http://blog.fuext.fukuyama-u.ac.jp/2016/01/blog-post_6.html )

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メンバー
上敷領 淳(薬学部 薬学科・准教授・生化学研究室)
大西 正俊(薬学部 薬学科・講師・薬物治療学研究室)
坂根 洋 (薬学部 薬学科・講師・免疫生物学研究室)
松岡 浩史(薬学部 薬学科・講師・病態生理・ゲノム機能学研究室)

プロジェクトの概要
日本における疾患別年間死亡数の内訳をみると、第1位 悪性新生物(がん)、第2位 心疾患、第3位 肺炎、第4位 脳血管疾患となっており、上位4つのうち3つが生活習慣病と関連したものとなっています。 特に、がん、心疾患、脳血管疾患はコレステロールやトリグリセリドなどの脂質代謝異常が大きなリスクファクターとなることが知られており、食の欧米化に伴い、患者数は増え続けています。 疾患別年間死亡数の内訳には反映されていませんが、がんや心疾患、脳血管疾患の背景には脂質異常症や糖尿病、高血圧などの基礎疾患があります。 これらの疾患は食生活や運動習慣など、特に生活習慣との関わりが強い疾患であり、生活習慣病と呼ばれています。
        疾患別 年間死亡数の内訳
        (国民衛生の動向 2013/2014)

生活習慣病はできるだけ早い段階で発見し、治療を開始することが重要となります。 多くの場合、発見されたときには症状が進行してしまっているため、治療はますます困難となり、生活の質が大きく低下してしまいます。 したがって、より効果的な治療方法を開発することと同様に、病気の進行を遅らせ、なるべく症状を初期の段階にとどめておく治療法も必要となってきます。

我々は生活習慣病の中で、特にがんと糖尿病に焦点を絞っています。これらの疾患は発症自体が生活の質を著しく低下させるため、早期発見・早期治療により早い段階で症状をコントロールする必要があります。 治療が遅れてしまったり、うまくいかなかったりすると、さらに生活の質を低下させる様々な合併症へとつながってしまいます。 がんでは、転移・浸潤によって腫瘍が多くの臓器に広がってしまう可能性が大きくなってしまいます。 また、糖尿病では、三大合併症の1つである糖尿病網膜症が引き起こされてしまい、最悪の場合、失明してしまう恐れがあります。 腫瘍の転移・浸潤、また、糖尿病網膜症を防ぐための有効な治療方法は確立されておらず、定期的に検査をすることで重症化を防いでいるのが現状です。

腫瘍組織における血管新生と転移・浸潤
細胞は、がん化しても血管が新生されなければ、がんは体内で微小な状態にとどまる。 しかし、血管が新生されると発育が加速されるとともにがん細胞の一部は血管内に侵入して離れた臓器へと転移する。 また、原発がんが増大するためにも血管新生が必要になる。
網膜における新生血管からの出血
血糖が高い状態が続くと、網膜の血管は少しずつ損傷を受け、変形したり詰まったりして血行が悪くなる。 悪くなった血行を補うために血管が新生されるが、新生血管はもろいため容易に出血する。

がんの転移・浸潤、糖尿病網膜症ともに発生および症状の進行には共通している部分が多くあります。 その1つが新しい血管が生じてくる「血管新生」です。 疾患の進行に伴って、疾患部位周辺が低酸素状態や低栄養状態になると新たな血管をつくることで酸素不足や栄養不足を補おうとします。 しかし、新たに作られた血管はもろく、内容物を容易に漏出させるため、様々な障害を引き起こしてしまいます。 そこで、我々は本プロジェクトで血管新生の起こるメカニズムを明らかにし、血管新生を防ぐ新たな治療方法を開発するための基盤を築くことを目指しています。

新たな血管が生じる際に中心的な役割を果たす細胞の1つが血管の内側で血液と接する血管内皮細胞です。 組織が酸素不足や栄養不足になると血管内皮細胞を呼び寄せる様々な因子が作られ、近くの血管に作用することで、血管内皮細胞がアメーバのように新たな血管を伸ばしていきます。

血管内皮細胞が増殖する際に細胞内のコレステロール量が重要な役割を果たしていることが指摘されています。 コレステロールは動脈硬化などで血管を詰まらせる「悪玉」として捉えられがちですが、生体にとって必須の栄養素であり、不足すると細胞をもろくしたり、十分な量のホルモンが作られなくなったりと、体に多くの悪影響を及ぼします。 細胞内で適切な場所に、適切な量のコレステロールが届けられることが細胞が正常な機能を果たす上で重要であり、コレステロール運搬の破綻は細胞機能の破綻につながってしまいます。


本研究では、コレステロールの細胞内輸送と血管内皮細胞の増殖・機能維持の関係を明らかにし、創薬のターゲットとなる変化・異常を分子レベルで明らかにすることを目指しています。 細胞内のコレステロール輸送に関しては不明な点が多く、未知の分子が多く関わっていることが予想されます。 研究遂行においては困難な場面が多く待ち受けていると思いますが、メンバーで力を合わせ新たな治療方法の開発へ向けた基盤形成を成し遂げたいと思います。

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学長から一言:もうちょっと柔らかく書いてくれると助かるなァー。。。後期高齢者に仲間入りした学長のつぶやきです。。。エー、私のコレステロール値は大丈夫です。。。