2016/07/23

2016年度 経済学部シンポジウムを開催!

こんにちは。学長室ブログメンバー、経済学部経済学科の石丸です。

7月16日(土)、福山大学宮地茂記念館において、2016年度 福山大学経済学部シンポジウムが開催されました。その様子を、経済学部 国際経済学科の萩野覚教授が報告します。

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今回のシンポジウムは、「産業をリードするもの」と題して行われました。これは、製造業のウェイトが高く、また、オンリーワン企業と言われる独自の技術を持つ企業が集積している備後経済を題材として、今後、一層の産業発展の途を探るものです。

パネリストとして、本学の中沢孝夫教授(経済学部税務会計学科)、春名章二教授(同経済学科)に加え、広島県府中市に本社が所在する北川鉄工所の竹田清則常務執行役員(産機事業部事業部長)にも参加して頂きました。シンポジウムは、中沢教授の司会の下、第一ラウンドで、パネリストが報告を行い、第二ラウンドで、フロア(聴講者)からの質問にパネリストが答える、という形で進みました。

第一ラウンドでは、まず中沢教授から、備後経済の特徴について、次の点が指摘されました。


第一に、企業同士で取引される中間財や生産財を販売する企業が多く、その多くは、一般の消費者が知らないこと。

第二に、製品のブランドは、消費者心理に依存するようなものではなく、「プロ同士で、あの会社の製品でなければならない」といった、製品の機能や品質を基にしたものであること。

第三に、取引の対象が世界的であって、完成品メーカーよりも、グローバルな観点で経営を行っていく余地が大きいこと。

中沢教授は、備後、特に府中市の企業の研究を集中的に行う中で「一つの地域を掘り下げて行くと世界につながる」との思いに至ったとのことで、まさに、経済のグローカリゼーション(グローバリゼーションとローカルを合わせた造語)を見て感じて理解した、ということでしょう。

次に、春名教授から、企業の競争力に関する最近の議論や企業経営のトレンドについて、次の点が指摘されました。


第一に、企業の競争力には、価格競争力と製品競争力とがあり、つれて、企業のイノベーションとして、工程革新にとどまらず、人々の生活に変化をもたらすような製品革新が重要であること。

第二に、企業活動を、「製品開発」⇒ 「製造」⇒ 「販売」といった段階に分けると、入口の「製品開発」と出口の「販売」の付加価値率が高く、「製造」の付加価値率が低いという傾向があり、これを図示すると、スマイルカーブ(笑った時の人間の口の形のように、両端が少し上がった形の曲線)になること。

第三に、製造コストの安い海外に製造拠点を移す企業が増えているが、海外での工場立ち上げに携わる人材の確保が課題となっていること。

そのうえで春名教授は、大学が、そうした、いわばグローバル人材の育成にどの程度貢献できるかが問われている、との問題提起を行いました。

最後に、北川鉄工所の竹田常務より、同社の経営の特徴について、以下の点が指摘されました。


第一に、主要事業は、金属素形材(鋳物)、工作機器、産業機械であり、その何れにも属さない研究開発を開発本部において取り組んでいること。

第二に、製品の性質上、北川鉄工所の名前を全面に掲げて知ってもらうのは容易ではないが、多くの事業で、技術力を基に非常に高いマーケットシェアを維持していること。

第三に、グローバルな展開を行っており、鋳物ではタイ、メキシコに、工作機器では中国に製造拠点を持つほか、英・米・独国に販売拠点を置いていること。

メキシコでは、日系自動車メーカーの生産が拡大(年間350万台体制から500万台体制へ)しており、そうした中、北川鉄工所は、トランスミッション部品の製造会社に鋳物を提供すべく、2013年にメキシコに工場を開設。竹田常務は、メキシコ工場の立ち上げを現地で自ら行ったとのことで、当事者でなければできない、迫力のあるお話しをして頂きました。


第二ラウンドでは、フロアからの質問を踏まえ、以下のような議論が展開しました。


(1)スマイルカーブの妥当性について

スマイルカーブが当てはまるならば、なぜ備後地域で製造業が衰退しないのか、との疑問が示されました。この点、中沢教授は、「中間財に従事する企業、全体の中の製造過程のみを担っているということではなく、中間財の開発⇒製造⇒販売の全過程、つまり、入口から出口までを担っているために、高い収益性を維持している。」との説明がなされ、納得感が得られました。また、備後企業の高い技術力に基づく参入障壁や深層の競争力も、高い収益性を支えているとのこと。

この関連で、製造活動において人口知能は人間の代わりになるか、といった質問に対し、中沢教授は、備後企業の匠の技術を紹介しつつ、「代わりにはならない」と結論付けました。竹田常務からは、海外製造拠点の自動化を念頭に「自動化投資のコストと賃金上昇のバランスを見つつ、経営判断して行く問題」とのコメントがありました。

(2)ブランド力の強化策について

米国アップル社などと比較すると、日本企業のブランド力は弱いように思われるが、これはなぜか、またブランド力を強化するにはどうすれば良いか、といった質問がありました。春名教授は、日本では、「良いものを作れば売れる」との江戸時代以来の発想から、完璧主義に走る企業が多く、そうした企業では、ブランド構築やマーケティングに十分な資源を投入できてきない、との指摘がありました。

海外では、製品の品質はほどほどでも、どんどん宣伝して売って行くことを捉え、「日本でも、いかに厚かましい人材を育てるかが、マーケティングの基盤である」との興味深い見方も示されました。その際、積極的に海外に行って視野を広げてきた女子の活用を図るべきで、「海外旅行にも躊躇するような男子はグローバル化に取り残される」のだそうです。

(3)メキシコでの現地法人経営について

メキシコ(アグアスカリエンテス)の現地法人を経営することは、品質管理や労務管理などの点で難しいのではないか、との質問に対し、竹田常務は、タイ工場と比較すると、メキシコ工場の品質は良く、労務管理はし易い、と回答されました。その理由は、メキシコ人がどんどん自己主張してくれるのでコミュニケーションがし易く、その結果、品質改善に向けた取組みをスムーズに行える、からだそうです。もちろん、タイ工場において苦労して生産管理のプロセスを構築してきており、メキシコ工場の成功が、そのプロセスを土台にしている点も、強調しておられました。

画像:北川鉄工所より

留意点として、メキシコ人には、日本人のような終身雇用の観念が薄く、離職率が高いことから、現場の労働者に過度なスキルアップを要求しないで単純作業を正確に行わせることとし、現場長の育成に注力することが有効、とのこと。企業経営の機微を知らされました。また、現地の人の体形の違い(20cmくらい)に配慮して機械を配置しないと、ものが壊れたりして大変なことになるそうです。実際に現場を見てみたいですね。


さて、こうした議論の末、パネリストと聴講者の間で、「日本人は殻にこもっていないで、厚かましく、自己主張してコミュニケーションを取らないといけない。」といった共有認識を持つに至ったように思われます。これは一見、「産業をリードするもの」とのシンポジウムのテーマから外れるかのようですが、企業が人によって動かされている以上、ある意味、至極当然の結論であるように思われました。


そして、その時、「勿体ない」と思ったのは私だけだったでしょうか。このシンポジウムの議論を、福山大学はじめ備後地域の大学で学ぶ学生に聞いてもらい、刺激を受けてもらえば良かったのではないか、との思いからです。

でも、まだ遅くはありません。刺激を受けてみたい、という方にお薦めの講義があります。

今年の10月と11月の毎週土曜日に、「国際経営における人材の育成と備後企業の取り組み」と題する講義が行われる予定で、尾道市立大学、福山大学、福山平成大学、福山市立大学に通う学生や備後圏域に在住または勤務されている社会人の受講生を募集しています。

中沢教授や北川鉄工所の素形材事業部の方のお話を(不肖・萩野の話も)聞くことができますし、12月には、希望者を対象に海外現地研修(タイを予定)も行います。詳しくは、http://goo.gl/7s2bcuをご覧頂き、ご質問などがありましたら、global@fuec.fukuyama-u.ac.jpまでメールを送って下さい。よろしくお願いします。


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学長から一言:門外漢の私ですが、とても興味深く拝聴しました。。。最初の報告は3人3様で、いささか頭の中で関連づけにくかったのですが、質問者への回答から、結びつきが見えてきました。。。学生には在学中にぜひ1度は海外に研修や留学してほしいですねッ。。。就職してからの海外派遣要請をしっかり受けて立てますよ!!!