2016/12/17

税務会計学科教員の備後経済研究成果の刊行ラッシュ!

学長室ブログメンバーの張楓です。今回は、経済学部税務会計学科中沢孝夫教授と私による備後経済研究の成果刊行について紹介します。
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中沢孝夫教授と私はそれぞれ2014年に福井県立大学と広島大学から福山大学経済学部に転任して、現在、税務会計学科の備後経済コースを担当しています。研究分野はそれぞれ中小企業論と日本経済史・経営史で異なるものの、地域経済・地域産業に対する関心の強さでは共通しています。従って、地域経済・地域産業に対する研究アプローチも自ずと異なります。そのため、経済学部の備後経済研究が非常にバラエティに富むものとなるのみならず、経済学部の在学生に対する教育および、大学をとりまく地域行政・地域企業との連携に当たっても、最新の研究成果を踏まえながら、多様な視点をもって取り組むことができています。この点は税務会計学科の最大の強みとなっています。本来あるべき経営学教育の実践ともいえましょう。

そもそも、備後経済コースはご逝去された経済学部の桑原哲也教授の強い信念により設立されましたが、その設立経緯と理念について、前経済学部長の入谷純教授は次のように語っていす(「福山大学経済学部桑原哲也教授を偲ぶ」『備後経済レポート』No.1899、2014年12月20日)。

 「備後地域の現状を申上げると、産業の総生産をみると井原、笠岡地区を入れた備後地域は、岡山県内の県民総生産を超えています。島根県の県民総生産と比べると約3倍です。備後地域は非常に巨大な産業集積があります。東京、名古屋、大阪のベルト地帯をのぞけば、日本一です。しかもこの産業集積は1つではない。繊維、鉄鋼、機械など何重にもあります。「こういう独特の地域がどのようにしてできあがったのか、オンリーワンやナンバーワンといわれる企業や技術はどこから生まれたのか。一体これは何なんだ?」ということを桑原先生は解明されたかったのだと思います。また、福山大学の学生は備後地域から入学し、備後地域の企業に入る人が多いことから、学生に備後の経済を学んでもらわない手はないということで、備後経済コースを作りました」

つまり、備後経済の研究と備後経済を支える人材の育成という点に、備後経済コースの設立経緯と理念はあるといえましょう。

名物講義ともいわれている企業経営者による「備後経済論」、アクティブラーニングとして社会見学・工場見学を行う「地域調査」は、そのいずれも地域経済・地域企業に対する長期持続的かつ真摯な研究姿勢と、人材育成への研究成果のフィードバックによってはじめて成り立つものであると確信しています。

中沢教授と私はともに着任以来、一貫してそうした理念に徹してきていると自負できます。
主な研究成果として、11月・12月に相次いで『備後』、『100年』と題する書物が刊行されています。

・中沢孝夫『世界を動かす地域産業の底力:備後・府中100年の挑戦』筑摩書房、2016年。



「本書は備後・府中市の産業・企業の盛衰と、そこで生きた人々の物語であるが、この物語は、明治期からの近代日本と、戦後、という現代日本の縮図であるといってよい。例えば今日の府中市は、備後地域を拠点に、国内だけではなく、グローバルな領域へと広がりをもちつつある。それは、日本全体がそうであるように、これまでの経営や技術の工夫といった営みの延長線上にある」(序章)。

本書の構成は以下の通りです。

序章 備後・府中から世界へ
第1章 二つの大企業
第2章 地域と企業の物語
第3章 伝統地場産業と中小企業の発展・転換
第4章 中堅企業の生成と発展
第5章 府中の二人の起業家
第6章 経済的特性を読み解く

中沢教授は著名な中小企業研究者として、これまで『中小企業新時代』(岩波新書)、『グローバル化と中小企業』(筑摩選書)、『ものづくりの反撃』(共著、ちくま新書)など多数の書籍を刊行してきました。今回、府中商工会議所創立70周年記念事業の一環として数十社の地元企業経営者に対するインタビューを重ねてまとめたものです。今春の心臓バイパス手術を受けたなかでの調査と執筆、刊行に敬服しています。機械・家具・味噌・アパレルなど多様な府中地区の企業の底力を知る好著ですので、幅広く読んでいただきたいと思います。

・張楓『備後の機械工業100年の歩み:「縁の下の力持ち」構造的分析」』栄工社、2016年。


自画自賛となりますが、ご紹介します。
拙著は2016年8月に経済学部より刊行した調査報告書『備後地域機械工業集積の100年:創業と技術蓄積、分業ネットワークに着目して』をベースに、一般読者向けに再構成し、福山に本社がある株式会社栄工社の唐川正明社長のご尽力により刊行したものです。本書の執筆では、福山や府中を中心とする備後東部地区機械・金属業界の企業100余社及び広島県東部機械金属工業協同組合、福山地方鋳造工業協同組合、広島県工作機械器具協同組合、広島県商工労働局東部産業支援担当、広島県立総合技術研究所東部工業技術センター、福山市史編さん室などの所関係者に格別のご高配を賜りました。また、栄工社の唐川社長には本書出版の機会をいただきました。ここに記して厚く感謝の意を表する次第です。

拙著の刊行も福山大学の研究者と地元企業との信頼関係に基づく産学連携による大きな成果と言っても過言ではないでしょう。

栄工社の唐川社長による「あとがき」を掲載しておきます。


拙著の目的は、1900年代から2000年代に至るまでのおよそ100年間に焦点を当て、これまで解明されてこなかった備後地域の機械工業集積のダイナミズムを解明しようとしたものです。

備後地域の機械工業集積の構造的特質や独自性は極めて見えにくいのも事実です。それを専門的な研究によって、歴史的に形成されて来た「丘陵型分業構造」ととらえました。自動車や電子機器、食品産業界など身近な消費財産業をはじめ、半導体産業や建設業、包装業、印刷業、産業廃棄物処理業など、日本また世界における幅広い産業界の成長を目立たないところで下支えするところに最大の特徴があります。

拙著は論点と3編7章から構成されています。

論点 備後の「丘陵型集積」を探求
戦前編 伝統のものづくりが熟成
1章 工場分布と創業・立地
2章 戦前の集積形成要因
戦後編 復興から多様な発展へ
3章 補助産業から主力産業へシフト
4章 機械金属業界の組織化
5章 基盤的技術の高度化・多様化
展開編 人・モノ・情報のつながり
6章 域外大手と地元機械メーカー
7章 分業ネットワークの深化

備後地域のものづくりのダイナミズム及び今後の課題を知る手掛かりとして、行政や企業のみならず、一般市民も学生にも幅広く活用していただきたく所存です。

張楓宛てにご連絡いただきましたら、贈呈いたします(部数に限りあり)。
kaede@fuec.fukuyama-u.ac.jp

拙著以外の備後経済研究成果については、備後経済研究会のホームページに公開されていますので、あわせてご参照ください。


学長から一言:いずれも、グローバルな視野から備後圏域というローカルを深く掘り下げており、とても刺激的です。。。備後地域の中核となる人材を育成している福山大学にふさわしい好著!!!