2016/06/11

「文化フォーラム2016」第1回。キーワードは「詩人たちの自筆原稿」 と「蜂鳥」

人間文化学科の学長室ブログメンバー、Sです。こんにちは。

今回は、5月28日に行われた「文化フォーラム 2016」第1回「文字の魅力:エミリー・ディキンスンの自筆原稿を読む─宮沢賢治の自筆原稿との比較を試みながら─」についてお伝えします。以下、青木教授からの報告です。

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文化フォーラム2016の第1回を、下記の通り開催しました。

今年のテーマは、「文化における視覚表現と言語表現」です。20世紀は視覚優位の時代であり、21世紀もその傾向は続いています。それは、言語表現にどのような影響を与えているでしょうか。また、文化全体にどのような影響をもたらしているでしょうか。文化フォーラム10周年記念の今年は、人間文化学部3学科の教員がそれぞれ専門の立場から多角的にアプローチします(前回の告知記事はこちら)。

第1回は、アメリカの詩人エミリー・ディキンスンと日本の詩人宮澤賢治、二人の詩から、鮮やかな色彩を持つ「蜂鳥」を描いた詩の自筆原稿を取り上げ、比較しました。30人弱の方が受講されました。

エミリー・ディキンスンの詩は、友だちに宛てた手紙そのもので、独特の字体で清書されたものです。重迫教授は、その字体の特徴や字間の開け方など、書かれた字体から詩人の隠された意図を読み取る過程を明らかにしました。


※ 当日の写真は、中国新聞エリア通信員の粟村真理子氏の提供です。

宮澤賢治の詩は、大正13年から昭和8年の死の直前まで推敲がなされた詩「北上川は熒気を 流しィ」を取り上げました。これは、干天が続いた夏の或る昼下がり、林の中で出会った連雀のさえずりが女性の言葉に聞こえてきたという幻聴を描くものです。

私(青木教授)は、すさまじい推敲の跡を見せる自筆原稿をたどりながら、その幻聴から妹、弟、三人兄妹の会話詩がつむぎ出される過程を読みました。そこには、翡翠、夜鷹、蜂鳥という同じ科に属する鳥たちと自分たち兄妹を重ねる物語が読み込まれていました。

蜂鳥は、賢治の物語の中では、仏教的な天上にすむ鳥として 登場しますが、実際には賢治は蜂鳥を博物館の剥製でしか見ていません。物語の中でその鳥が動き出すときは、現実を超える何かが動き出すときです。林の中で 出会う鳥は、賢治にいつも亡き妹の魂を想起させました。この詩も、その幻想に連なるものです。

二人の詩人は、生きた時代は少しずれるものの、生前に職業作家にならず、ひとりで詩を書き溜め、死後にそれが出版されて評価が始まるという点でよく似たところを持っています。また、二人の家は、商人として財をなした祖父・父が、その財力を生かして地域の教育活動(宗教的)に貢献したことも共通する点です。そういった宗教的な環境の中で、自らの信仰を独自に求めたことも共通しています。

受講者の感想として、

「自筆原稿を読み解き、尚且つ日米の似た境遇にあった2人の作家を比較した講演は、初めてでした。貴重な体験をしました」

「アルファベットの視覚化はとても面白かった」

「宮沢賢治の推敲のあとが興味深い」

「二人の先生の比較がとても面白かった」

といった言葉が寄せられました。二人の文学の特徴をより明確にすることを目指して、今後も比較を続けていけたらと思います。

次回(第2回)は、6月19日(日)14:00~16:00 「古代ギリシャ・線文字粘土版文書からエーゲ文明の歴史を読み解く」、講師は、人間文化学科 山川廣司教授です。お待ちしています(会場:ふくやま文学館)。
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 学長から一言:自筆原稿を読み解き、さらに日米の似た境遇にあった2人の作家を比較した、何とも不思議な世界に聴衆を誘う講演ですね~。。。おもしろい!!!