2015/08/01

生物工学科の生物多様性教育が実る~論文賞受賞

こんにちは、ブログスタッフの生物工学科 佐藤です。

生物工学科は「瀬戸内の里山からはじまる食と環境のバイオサイエンス」というテーマの下で教育・研究を行っています。瀬戸内海と中国山地という接近した海と山に挟まれた非常に狭い場所に住んでいる私たちは、自然共生社会の構築を考える上でとても良い場所にいることになります(こちらの学長室ブログも見てね)。

今日は、生物工学科の2つの柱の1つである環境教育の成果が、日本哺乳類学会論文賞という研究の形で評価されたことを報告したいと思います。ブログスタッフの受賞なので仕方がありませんが、自画自賛です。。。
佐藤准教授が日本哺乳類学会論文賞受賞
 環境教育といってもいろいろありますが、今回の内容は生物多様性に関する教育です。私たちは生物多様性から様々な恩恵を受けています(生態系サービスといいます)。その一方で、現代は人の活動が地球史上もっとも大きな種の絶滅を引き起こしている時代であるとも言われています(第6の大量絶滅の時代)。したがって、人の活動が自然環境に与える影響を理解することは極めて重要なのです。

生物工学科では、主に2つの生物多様性教育を行っています。1つは、広大なキャンパスを利用して昆虫から脊椎動物、そして植物までの生物多様性に触れ、生態系の仕組みを理解することです。
学内で昆虫を捕獲し異なる環境間で昆虫相を比較
もう1つが今回論文賞受賞へとつながった「人の活動が生物多様性に与える影響を理解する」教育です。建物によって森林が分断化されると、そこに生きる動物たちにどのような影響があるのでしょうか? 具体的には、実習の中で、分断化された森林に生息するアカネズミの遺伝的多様性を調査し、人の活動がアカネズミの集団(個体群)に与える影響を学生たちが議論します。アクティブラーニングという教育手法を取り入れ、学生が積極的に学べる仕組みになっています(生物環境実験 生物編)。
ICT教室を使った実習成果発表の様子
さて、受賞論文内容ですが、実は2年ほど前に一度、学長室ブログで紹介させていただきました(研究へとつながる教育)。ここではざっくりと説明しますと、予想通り「大学キャンパス内に隔離された孤立林に生息するアカネズミの集団の遺伝的多様性は低下する」というものです。たった数十年の隔離であっても影響があるのです。
いつもこのアカネズミで、すみません。
 アクティブラーニングを使った低学年の教育、それを引き継ぐ形で3名の4年生が頑張った卒業研究、学生による学会発表、学術論文化、そして論文賞受賞。本受賞はこれらのすべての過程に意義を与えてくれたということで大変うれしく思っています。研究へとつながる教育!
2011年 哺乳類学会 宮崎大会で発表する川上君(当時4年生)
さて、この日本哺乳類学会論文賞は国際学術誌 Mammal Study に掲載された論文の中から年ごとに最も優秀な論文が選ばれます。日本哺乳類学会2015年度大会を兼ねる形で札幌で開催された第5回国際野生動物管理学術会議(IWMC 2015)の中で学会理事長から表彰されました。おめでとうございます!>自分
授賞式の様子(札幌コンベンションセンターにて)
以下、論文詳細と推薦理由になります。

【論文詳細】
Sato JJ, Kawakami T, Tasaka Y, Tamenishi M, Yamaguchi Y (2014) A few decades of habitat fragmentation has reduced population genetic diversity: A case study of landscape genetics of the large Japanese field mouse, Apodemus speciosus. Mammal Study 39 (1): 1-10.
【推薦理由】
本論文は,アカネズミの個体群において,小規模な人為的生息地分断が,30年ほどの短期間で遺伝的多様性の喪失を招く可能性を遺伝子解析により示したものである.著者らは,福山大学周辺の森林におけるアカネズミのミトコンドリアDNAの変異を調査し,キャンパス内の二つの個体群でハプロタイプ多様性の喪失が生じていること,キャンパス内外の個体群間に遺伝的分化が生じていることを明らかにし,過去の大学キャンパスの整備に伴う森林の分断による隔離のみがこれを説明できると考察している.本論文は,注目を浴びやすい大規模な開発だけでなく,身近で小規模な人為改変が短時間で野生動物に影響を与えている可能性を指摘した点で,保全生物学上重要な成果であるだけでなく,それをオーソドクスな手法と身近な題材で明らかにしており,研究における着想の重要性を示している点で,教育的な価値も高いと判断される.また,論文の構成,文章表現,論理展開の質も高く,日本哺乳類学会論文賞にふさわしい論文であると判断する.


学長から一言:佐藤先生、おめでとうございます。。。キャンパス内に新しい建物を建てるたびに、そこにもともと住んでいる住人には迷惑をかけている。。。ヒトは罪深い。。。グスッ!