2015/11/07

平成27年度海外(フィリピン)研修報告

こんにちは。経済学部経済学科の学長室ブログメンバーのIです。
今日は同僚の早川教授から、学生の海外(フィリピン)研修について報告していただきます。では、早川先生、よろしくお願いします。

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経済学科の早川です。
遅くなりましたが、海外(フィリピン)研修のご報告をいたします。


報告者: 経済学部経済学科教授(経済学科長) 早川達二

目的地: フィリピン(マニラ近郊)
実施期間: 2015年9月6日(日)出国、9月11日(金)帰国
実施の目的: 6%以上の高い経済成長率を維持しているフィリピンの現状を実地に視察する。アジア開発銀行、世界銀行、JICA、JETRO、諸企業などの訪問を通じて、フィリピン経済の構造と課題、直接投資の現状と投資環境、開発援助の実態と貧困削減への成果などについて全般的な理解を深める。製造業と、好調なサービス産業の実態を観察することで、新興国経済の発展の中身を考察していく。日比経済連携協定の存在のために、日本企業のフィリピンへの関心は強いので、こうした現場を学生が実際に見ることの教育的価値は高い。事前学習と研修に参加してレポートを提出した学生には規定の単位が与えられる。

宿泊先: Herald Suites、Makati City、Philippines
旅行費用: 参加学生の旅費個人負担は12万円程度
訪問先予定: アジア開発銀行、世界銀行、JICA、JETRO、企業、文化研修(歴史理解)
引率教員: 経済学部経済学科教授 早川達二
参加学生: 経済学部の3年生5名、2年生2名

9月6日(日) 行程 岡山空港から韓国インチョン空港経由でマニラへ

 韓国のインチョン空港へは午前11時半に到着、マニラへの出発は午後8時なので長い待ち時間がある。これを利用して、空港が運営しているソウル市内観光に皆で参加した。快適な大型バスも親切な観光ガイドも無料で提供してくれるのはとても有難く、時間を有効に使える。空港の人気を上げるのに、こうした無料観光ツアーは参考になる良いアイディアだと思う。実際、インチョン空港はこのところ世界で最も便利で快適な空港の一つとして高い評価が定着している。我々以外のツアー参加者は、ほとんどが中国人観光客であった。好天の下、王朝時代の貴族の家だったという庭園を訪れた後で、商店街を巡り、焼き肉店で昼食を一緒に食べた。韓国料理の本格的な辛さを一同満喫できた。

 マニラのアキノ空港へは深夜の到着となった。内装が去年より少しだけ改善している。丁度APECの会議が開催されているせいか、多くの外国人が入国審査を受けていた。小型バスに乗って、マニラの中心部マカティに位置するホテルに無事到着した。


観光バスでソウルに向かう

庭園に立ち寄る

賑やかなソウルの商店街


9月7日(月) 行程 豊ファインパック、東洋シート、Volenday

(豊ファインパック)

 高速道路を南へ進み、サンタロサにある工業団地へと向かった。ここにある豊ファインパックは本社が福井県の企業であり、2013年からフィリピンで操業している。外注ドライバーを含めて5名体制である。

 去年同様、マネージャーの根津さんが、創業の際に苦労した点などをまず説明された。当初、隣の会社から電力を借りなくてはならなかったことが印象深い。若い労働力が豊富であることは、フィリピン進出を決めた重要な要因であった。英語で比較的意思疎通が容易であることも便利である。しかし、電気代の高さはマイナス要因である。今のところ、取引先は日系企業であり、高品質、高価格の製品を販売し続ける方針である。去年から順調に会社が成長しているのを観察できたのは大変喜ばしいと感じる。

 仕事に関して根津さんは、日本でも外国でも、いつものようにやるべきことをきちんとやるという基本姿勢の大切さを強調された。

根津マネージャーからの説明

 参加メンバーは真剣

生産工程の見学


(東洋シート)

 東洋シートは豊ファインパックと同じサンタロサの工業団地敷地内で操業している。まず、昨年同様、原田副社長が会社の歴史を説明された。フィリピンには1999年に進出し、当初は主にフォードに納入していたが、フォードが2012年に撤退したために、取引先を多様化してきている。フォードの跡地、東洋シートのすぐそばに、三菱自動車が昨年移転してきて操業を開始したので、今後ビジネスが更に拡大していく可能性もある。

 従業員は現在350人で、そのうち124人が正社員である。去年の2月に始まった、エストラダ・マニラ市長(元大統領)によるマニラ港付近のコンテナトラック通行規制(昼間1車線)による港の混乱を受けて、同社は空輸による輸出を増やしたため、輸送費用が増えるというマイナスの影響を受けた。幸い、この規制は今年の3月に廃止された。

 去年もお会いした女性の鷹嶋さんは、1年半フィリピンに住んで暑さに強くなったとのことである。まもなく任期を終えられる木村さんは、日本との比較で日本人の手先の器用さを再認識されたそうだ。作業場で、日本では通常、作業後の点検にそれほど気を使わないで良いが、フィリピンでは作業後丁寧な点検、確認作業が必要で、時間をかけている。3週間前にフィリピンに赴任されたばかりの兼平さんは、人々がゆっくり、のんびりしているという印象を持たれた。原田副社長の御好意で、一同社員食堂でフィリピン料理の昼食を楽しむことができた。

生産ラインを見学

 社員食堂でフィリピン料理を頂いた


東洋シート記念撮影
(後列左兼平シニア・マネージャー、2人目鷹嶋副社長、4人目原田副社長、一番右木村副社長)


(Volenday)

 高速道路で再びマカティへと戻る。Volendayは、ITの利用などにより、採用作業などの企業のbusiness process outsourcing(BPO)を行う米国系企業であり、優遇措置のあるPEZA(経済特別区)の枠組みを活用している。ヒューストンとマニラで事業を行っている。

 英語を話す若い豊富な労働力を背景に、推定100万人が働くコールセンターなどのBPOはフィリピンの重要な成長産業の一つである。スペインとチリの国籍を持つ、私の友人であるJulio Endaraディレクターは、Volendayの全体的な業務内容をまず説明してくれて、一同オフィスも見学した。業務の例として、夜間にコンピューターを貸したり、スペインのNGOにオフィス空間の利用を提供するなどのサービスも行っている。また、あるチームは、オーストラリアの下着会社のために、妊婦用の下着をオーストラリアで宣伝、販売するための業務をここマニラで行っている。Volendayの得意分野の一つは、会社の求人のためのサポートであり、会社が条件を示してくれればそれに見合う人材を探してくれる。フィリピンでのJICA関連プロジェクトのための人材探しを手伝ったこともあるとのことである。

Julio Endaraディレクターによる熱心な説明

夜間に貸し出すコンピューターもある

Julio Endaraディレクター(右から2人目)を囲んで記念撮影


 前夜の到着が深夜で、またVolendayではすべて英語での説明だったこともあり、初日は皆かなり疲れたようだ。ホテルの前の日本料理店で夕食をとってから、休息に入った。


9月8日(火) 行程 JICA、世界銀行、JETRO

(JICA)

 ホテルからそう遠くないJICA事務所を訪れる。近いのに、交通渋滞でなかなか到着できない。お馴染みのマニラでの通勤風景である。

 JICAによるフィリピン支援の取り組みについて浅田NGOコーディネーターから詳しく説明して頂いた。技術支援、有償資金援助、無償資金援助、海外青年協力隊などの丁寧な説明があった。とりわけ、運輸インフラはフィリピンで重要な分野の一つになっている。また、ミンダナオでの和平交渉の側面支援事業では広島大学のチームが協力していることが紹介された。

 浅田さんは学生時代からフィリピンに興味を持ち、民間企業勤務を経てJICAに入り、このほどマニラ事務所に赴任されたとのことである。

浅田NGOコーディネーター(後列左)を囲んで記念撮影(JICAフィリピン事務所)


(世界銀行)

 マカティ市の隣のタギグ市のFort Bonifacioに向かう。広大な軍の跡地を再開発したこの地域は近代的で、ここは先進国のように見える。日本のUCCコーヒーが経営するレストランで昼食をとった後で、近くの世界銀行マニラ事務所を訪問する。新しいオフィスビルの26階である。

 今年は、ガバナンス・スペシャリストの早川元貴さんがお会いして下さった。私は昔ワシントンDCの世界銀行本部で早川さんとお知り合いになり、今回マニラで久々の再会となった。早川さんはフィリピンにおけるガバナンス(統治)に関する諸問題を深く研究されている。来年5月に大統領選挙(任期6年)があるので、タイムリーな話題である。フィリピンの経済を真に理解するためには、ガバナンスの観点が不可欠とのことである。フィリピンの政治に関して、一つの問題点は、政治家がしばしば政治をfamily businessとして考えてしまう傾向である。貧困率の高いミンダナオでは、政治力が一部のグループに偏ってしまう傾向が特に顕著である。様々な理由でフィリピンの選挙では通常、現職議員がかなり有利のようである。

 早川さんは米国NGO、またWHO(ジュネーブ)で勤務された後、世界銀行(ワシントンDC)に入られた。本部のアフリカ地域局を経て、最近はマニラ事務所で活躍されているグローバル人材である。参加学生と活発な質疑応答が続けられた。

早川元貴ガバナンス・スペシャリスト(後列左から4人目)を囲んで(世界銀行マニラ事務所)


(JETRO)

 今度はマニラJETRO事務所訪問のため、再びマカティに戻る。距離は短いのに、交通渋滞のために10分程遅刻してしまった。(車内からあらかじめ電話でお詫びをしておいた。)今年も石川ディレクターからフィリピン経済概況について詳しい説明をして頂いた。中でも、PEZA(経済特別区)の重要性や電気料金の高さなどが注目される。貿易と投資で見て、日本とフィリピンの間の経済関係が近年大変緊密になってきた事実がよくわかった。

石川ディレクター(後列右)を囲んで(JETROマニラ事務所)

その後、宿泊しているホテルの目の前にある新しいラーメン店で皆で夕食中に、雨季のフィリピンでお馴染みのスコールが降り始めた。あっという間にホテル前の道路が膝近くまで冠水し、横断不可能となってしまった。車は渋滞で動かない。結局一同靴を濡らして横断したが、フィリピンで一番経済的に豊かなマカティ市でも簡単な水はけを改善できないというのは実に残念な現実である。畠山君だけは、そばにいた子供たちが持ってきてくれた自転車を利用したが、やはり靴は濡れてしまった。去年と全く同じ出来事が今年もまた繰り返された。

今年もまた洪水による大混乱を体験(ホテルの前の通り)


9月9日(水) 行程 キャステム、イントラムロス、Mall of Asia

(キャステム)

 マニラ中心部から南西に進み、キャステムの工場のあるカビテ地域まで行くのに海岸地域を走る。キャステムでは最初に20年前にさかのぼる同社のフィリピン進出について、上杉工場長から説明があった。人件費の安さがフィリピンの魅力ではあるが、やはり工場のあるタイと比べて原材料費、電気・水道代は高い。転職も多いワーカーの半分が派遣労働者であり、生産費用の削減と調整に役立っている。対照的に、タイ工場では全員が正社員である。

 様々なメタル商品の販売先は日本市場がメインとなっている。東洋シートの場合と同様に、去年はマニラ港の混乱の影響から空輸を増やしたために輸送費用がかさんだ。キャステムはその生産の実に9割を海外で行っているグローバル企業である。福山市にある本社は主に技術の研究開発を担当する。現地生産体制では、タイのほか、米国市場を目指してこのほど南米コロンビアにも進出した。この日御不在だった広本社長はタイ工場訪問など、海外出張を頻繁にされるとのことである。

 「ロストワックス精密鋳造」部品の生産現場を見学することができた。ロウのパーツを複数つなげた「ツリー」を作成する様子は迫力満点であった。最後に、日本食弁当を一緒に頂きながら、会話を皆で楽しんだ。上杉工場長と、3年間いらしたタイ工場から移ってこられたテクニカル・アドバイザーの三輪さんが、フィリピンでの様々な苦労話を披露して下さった。


上杉工場長による案内と説明

暑い中でのかなりきつい仕事

 記念撮影(後列右上杉工場長、2人目三輪テクニカル・アドバイザー)


(イントラムロス)

 カビテから、マニラ旧市街を目指す。途中、マニラ湾沿いに日本大使館、米国大使館、マッカーサーが好んだマニラホテルなどの前を通過していく。フィリピン独立運動の英雄ホセ・リサルの記念公園とマニラ大聖堂で記念撮影をした後、イントラムロスへと向かう。ここは、300年間以上続いたスペインの植民地支配時代に作られた城塞都市である。中にあるリサルの記念館でフィリピンの歴史を学んだ。お土産店にも入り、買い物を各自楽しんだ。

リサル公園

 マニラ大聖堂

 サンチャゴ要塞の正面入り口


(Mall of Asia)
 マニラ湾に沿って進み、海岸沿いにある巨大なMall of Asiaを訪れた。その名の通り、ここはアジアでも有数の大きさを誇るモールである。皆、お土産などを熱心に選んでいろいろと買っていた。中でも、人気のココナツ・オイルを買うメンバーが多かったようだ。


9月10日(木) 行程 アジア開発銀行(ADB)、NEC Philippines

(アジア開発銀行)

 アジア開発銀行(ADB)の本部はマカティ市の隣のマンダルーヨン市に位置している。予想通りの激しい交通渋滞の中、ゆっくりと進んでいく。マニラで車を運転するのには本当に忍耐が必要である。

 ADBが我々のために用意してくれたプログラムでは、まずフィリピン担当のPrincipal Country SpecialistであるJoven BalbosaさんがADBのフィリピンへの支援の概要について説明された。すでにJICAとJETROを訪問していたので、内容的にはわかりやすかったと思う。続いて、アドバイザーのGambhir BhattaさんがADBのガバナンス(統治)に関する活動について発表された。やや難しかったかもしれないが、世界銀行でフィリピンにおけるガバナンスの重要性の話を詳しく聞いていたことがかなり役に立ったと思われる。ADBの建物は大きいので、雨水の再利用、紙のリサイクルなどを通じて環境に良い装置を備えている。Facilities SpecialistのMirko Rizzutoさんと一緒に屋上にある新しいソーラーパネルなどの施設を見学させて頂いた。

 中庭で記念撮影をした後で、今年の7月にADBに来られた長谷川理事を皆で表敬訪問した。理事は学生全員との活発な質疑応答を通じて、ADBなどの国際金融機関の役割をわかりやすく解説して下さった。ADBは日本人職員の数の多い国際機関である。

 昼食はカフェテリアで、私の元同僚の方々と一緒にとり、皆で楽しい交流となった。去年の訪問で対応して下さったシニア・エコノミストの谷口さんの他、シニア・アドバイザーの金井さん、中央・西アジア地域局エコノミストの菅さんも参加して下さった。濱田君から、ADBはどのようにして融資をする相手となる民間企業を見つけ出すのかという質問があった。話によると、先方から売り込んでくる提案も多くあるが、それらが必ずしもうまくいきそうな案件ではないという現実があるようだ。

車間距離の短いマニラの通勤風景

 ADBに到着

 説明会場

 新しいソーラーパネルのあるADB屋上で
(後列左Mirko Rizzuto Facilities Specialist)

 中庭で記念撮影

 長谷川理事(左から5人目)を囲んで

カフェテリアで交流ランチ、金井シニア・アドバイザー(左)、谷口シニア・エコノミスト(右)

 菅エコノミスト(中央)

皆で記念撮影(アジア開発銀行本部のカフェテリア)


(NEC Philippines)

 いよいよ最後の訪問先であるNEC Philippinesに向かうために、マカティへと戻っていく。相変わらずの交通渋滞である。副社長の澤田さんが丁寧に対応して下さった。NECはもう50年近くもさかのぼる1967年にフィリピン事務所を設立した。日本のODAに関連して業務を始めたとのことである。NECはコンピューターなどのメーカーというイメージも一般的に強いが、今の重点分野はIT技術を活かした空港設備などの社会インフラであり、フィリピンなどの発展途上国では多くのニーズがある。JICAとの連携も盛んである。通信用の海底ケーブルにおいても、技術があり、得意分野の一つになっている。また、日本と同様に自然災害の多いフィリピンで、日本のODA事業である広域防災システムの開発プロジェクトでは中心的な役割を果たしている。社長はAgnes Gervacioさんというフィリピン人女性で、皆で挨拶をすることができた。

 澤田副社長(前列右)を囲んで(NEC Philippines)
前列左がこの報告書の執筆者の早川教授(学長の注)


 さて、実はこの日もまた最後にまた皆で近くのモールに寄りたいという希望もあったのだが、雨がかなり強くなり、交通渋滞も更に激しくなってしまったので、断念した。最後の夕食は滞在しているホテルの中にある日本食レストランでとり、研修を打ち上げた。今回の参加学生は近い将来、今度は会社の出張でこのホテルにまた戻ってくるかもしれない。


9月11日(金) 行程 マニラから韓国インチョン空港経由で岡山空港へ

 帰りは、昼にマニラを出る便なので、時間の余裕が十分にあると思っていたところ、空港近くで猛烈な交通渋滞となり、少し焦った。これでは飛行機の便に間に合わない人々も出てしまうだろうと思う。つくづくマニラでの激しい交通渋滞による経済的な損失の大きさが本当に残念である。

 帰りの飛行機便はインチョン空港行きも岡山空港行きも順調で、予定の時刻に岡山空港に到着できた。一同、フィリピンという国の実情を見て、多くを身近に学び、感じることができた。また、日本のありがたさを認識できたのではないだろうか。安全や、水道の水を普通に飲めること、信号があって安心して通りを横断できること、強い雨が降っても水がはける道路などは、日本国内では当たり前のように見えてしまうが、外国では状況が異なる。時間はかかりそうだが、将来マニラがもっと安心で、交通面でもより便利な場所になっていくことを期待したい。今年もまた実りの多い、密度の濃い研修となった。お世話になった方々全員に対して一同感謝の気持ちで一杯である。



学長より一言:学生の皆さん、密度の濃い研修旅行でしたねッ!日本の常識が世界の常識ではないことも、肌身に感じられて、一回り成長して、帰ってきたことと思います。。。早川先生、お疲れ!