2018/03/12

福山大学に次世代シークエンサーがやってきた!

こんにちは、海洋生物科学科学長室ブログスタッフ Kenji♪ です。

福山大学に、待望のイルミナ社の次世代シークエンサーMiSeqが導入されました。

次世代シークエンサーとは、従来よりも格段に多くのDNA情報を解読する装置で、その応用分野は以下の解説のように極めて多岐にわたります。

今年度採択されました私立大学研究ブランディング事業「瀬戸内海しまなみ沿岸生態系に眠る多面的機能の解明と産業支援・教育」をはじめ、福山大学の多くの教育・研究で活躍することが期待されます。

以下、DNAシークエンサーについて生物工学科の佐藤淳准教授に解説してもらいました。

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こんにちは、生物工学科の佐藤です。

現在、オーストラリア アデレード大学に長期滞在中ですが、メールで以下の写真とともに次世代シークエンサーMiSeq(イルミナ社)が福山大学に導入されたという報告を受け、思わずガッツポーズをしました。次世代シークエンサーとはいったい何者なのでしょう?できるだけ簡単に紹介したいと思います。
海洋生物科学科 阪本准教授と次世代シークエンサーMiSeq
シークエンサーの歴史は40年ほど前まで遡ることができます。最初にマキサム・ギルバート法とサンガー法が1970年代に考案されましたが、サンガー法(1977年)がその後のシークエンス技術として残りました(このことでフレデリック・サンガー博士はノーベル賞を受賞)。その約10年後の1986年に初のDNAシークエンサーが開発されました。


初期のDNAシークエンサーは、大きなガラス板とガラス板の間にゲル(寒天のようなもの)を挟めて、その中をDNAに泳いでもらい、流れてきたDNAの情報を読み取るというものでした(下図)。私が学部4年生だった2000年にはこの手法を使っていました。DNAは4種類の文字の並びで成り立っていますが、300文字程度を読むのに一日がかりでした。ガラスとガラスの間にゲルを流し込むことがなんと難しいことか。何回も失敗したのを覚えています。

その後、私が大学院に入るころ、キャピラリー型のシークエンサーが使えるようになりました。これは、ガラスとガラスの間ではなく、管(キャピラリー)の中にゲルのようなものを充填して(機械が行う)、その中をDNAに泳いでもらうという方法です。ガラスとガラスの間に自分でゲルを流し込む必要がなくなりましたので、シークエンサーの取り扱いがとても簡単になりました。


福山大学では4本キャピラリー型のシークエンサー(ABI3130)が、グリーンサイエンス研究センターに導入されており、研究はもちろんのこと学生実習でも活躍しております。DNAシークエンサーが本学の教育・研究に及ぼした影響は計り知れません。

2003年にヒトゲノムプロジェクトが完了しましたが、その時に活躍したのがこのキャピラリー型のDNAシークエンサーでした。

そして、2005年から2007年にかけて次々と次世代シークエンサーが開発されました。これまでとは全く異なる原理によるDNAシークエンサーの登場です。異なるメーカー3社から販売され、今も激しい開発競争が繰り広げられておりますが、ひとまずイルミナの次世代シークエンサーのシェアが最も大きいようです [1]

次世代シークエンサーの何がそんなにすごいのかというと、その出力されるデータが桁違いに多いことです。そして、非常に微量なDNAも検出してくれる感度の良い装置でもあります。何故、それほど多くのデータを生み出せるようになったのでしょうか?


一つの理由は、一度の実験で解読することのできるDNAの数が格段に増えたことです。上の図でもお分かりのように、出力されるDNAの数の桁が違います。さすがに5000万個のチューブを実験台に並べて実験を行う気にはなれません。

そして下の図のようにそれぞれのサンプルに「目印」をつけることで、異なるサンプルをまとめて分析することができるようになったところもポイントです。「そんなことしたら、ぐちゃぐちゃの結果が出てきて、どのDNAがどのサンプルのものかわからないではないか」と思われるかもしれませんが、その「目印」を使って、次世代シークエンサーの分析後にコンピュータ上で各サンプルのデータを整理することができるのです。

このようにして次世代シークエンサーはこれまでにない量のDNA情報を決定できるようになりました。

さて、その次世代シークエンサーが使われる適用範囲ですが、非常に広い分野になります。私たちは、私立大学研究ブランディング事業に採択された「瀬戸内海しまなみ沿岸生態系に眠る多面的機能の解明と産業支援・教育」の研究プロジェクトで、主に生態学研究で利用します。藻場や干潟、島の水系、動物の糞の中に含まれる種々雑多な生物由来のDNA(環境DNA)を分析することで、瀬戸内海の島とその沿岸生態系の生物多様性を明らかにしたいと考えています。

今や海や川の水をすくうだけで、そこに住む魚類 [2] や水を飲みに来た哺乳類 [3] の存在を知ることができます。動物の糞の研究では、例えば、アフリカの象やシマウマなどの草食哺乳類がどのように植物を食い分けているのかを明らかにした研究が知られています[4]。すごい世の中ですね。その他、環境、医療、農業、水産業、法医学、考古学、進化生物学などなど、生き物に関連する多くの分野ですでに次世代シークエンサーを使った成果が報告されています。

上にも書きましたが、次世代シークエンサーの開発は激しく、さらに新しいタイプが出てきています。この開発のスピードにはとどまるところを知らない勢いがあります。とはいうものの、備後の周りを見渡してみて、次世代シークエンサーが導入され、しかも生態学に利用されている研究機関は非常に少ないです。応用分野は広いですので、この機器を中心に大学のみならず地域を盛り上げたいですね。

福山大学からはどんな面白い結果が出てくるのでしょう。頑張りましょう。

[1] Goodwin et al. (2016) Coming of age: ten years of next-generation sequencing technologies. Nature Review Genetics 17: 333-351.


学長から一言:自然科学の領域は、機器の進歩と学問の進歩が一体ですねッ!佐藤准教授はこの次世代シークエンサーが欲しくて欲しくてたまらなかったのですが。。。少々お高いので。。。でも私立大学研究ブランディング事業が採択されたのでついにゲット!!!よかった~~研究もぐんぐん進みますよ~~