2016/03/04

やっぱり研究は面白い!グリーンサイエンス研究センター公開講演会

こんにちは、ブログスタッフの生物工学科の佐藤 j淳です。

今日は2月29日(月)に行われたグリーンサイエンス研究センター 公開講演会について、薬学部 上敷領 j淳 准教授と共著で(ジュンジュン准教授コンビで)報告します。この公開講演会については、以前の学長室ブログでもご案内させていただきました。

現在、グリーンサイエンス研究センターでは若手教員により二つのプロジェクトが動いております。こちらも以前の学長室ブログで報告いたしました。

プロジェクト1(脂質代謝プロジェクト):
生活習慣病の新たな治療方法の開発を目指した脂質輸送と細胞機能の関連性の解明
プロジェクト2(里山・里海プロジェクト):
瀬戸内の里山・里海における生態系機能の解明に向けた研究拠点の形成

グリーンサイエンス研究センターは設立以来、環境と健康の研究拠点として機能してきました。今回も環境と健康それぞれでプロジェクトが新しく立ち上がった形となります。
講演の開始に先立ちまして、松田文子学長から挨拶があり、グリーンサイエンス研究センターで新しく芽吹いた若手教員による研究成果の発表に期待しているというエールがありました。
グリーンサイエンス研究センター 岩本博行センター長の挨拶があり、第一部の研究成果発表が始まりました。尚、以下のそれぞれの演者の所属と名前をクリックするとその紹介ページに移動します。興味のある方は是非ご覧になってください。

まず薬学部薬学科上敷領淳 准教授がプロジェクト1の概要について説明しました。今、先進国を中心に世界各地で肥満が蔓延していること、そしてこれまでに肥満を克服した国が一つもないことを示し、脂質代謝研究の重要性を説きました。

続いて、『コレステロール輸送と細胞機能の関連性の解析』についての研究発表を行いました。血管内皮細胞は細胞内のコレステロール蓄積量が多くなると活動を停止し、また、細胞からコレステロールを除去しても活動を停止するという発表内容で、コレステロール量のコントロールが血管形成をターゲットにした創薬に繋がるのではないかと期待させる大変興味深い内容でした。
2番目に、薬学部薬学科松岡浩史 講師が、『細胞間接着に関わるクローディンD1の発現調節機構の解析』についての研究発表を行いました。

脂質応答性の核内受容体RORαが細胞接着にかかわるCLDND1の転写活性化に関与していることをシステマティックに示した発表でした。脂質量に依存して血管内皮細胞同士の結合の強さが調節されている可能性を示唆しており、非常に興味深い話でした。
3番目に、薬学部薬学科大西正俊 講師が、『小脳出血時の浮腫形成~クローディンD1の減少と血液脳関門の破綻~』についての研究発表を行いました。

脂質異常症などが悪化してくると動脈硬化が進展し、出血性疾患のリスクが高くなることが知られています。小脳出血時に細胞接着分子CLDND1の発現量が減少しており、脳浮腫の原因になっているのではないかということを示した今後の展開が気になる面白い発表でした。
最後に、薬学部薬学科坂根洋 講師が、『筋分化におけるリソソーム膜蛋白質とコレステロール蓄積の関連性の解析』についての研究発表を行いました。

骨格筋は人体最大の組織であり、エネルギー代謝だけでなく、脂肪細胞の分化・成熟にもかかわっています。細胞の外から運ばれてきたコレステロールが分配される要のオルガネラであるリソソームの形成が骨格筋の形成にどのような影響を及ぼすのかを示した非常に興味深い発表でした。

ここからは第2部の報告です。

まず生命工学部生物工学科のわたくし佐藤がプロジェクト2の概要について説明しました。今、生物多様性の保全を介した自然共生社会の構築が国の環境政策に掲げられていること、里山と里海が生物多様性を保全する上で有効であること、福山大学が里山・里海研究を推進する上で最適な場所にあること、そして里山・里海の生態系を理解するうえで、生物間相互作用の解明が不可欠であることを説明しました。

続いて、『瀬戸内海の島でネズミは何を食べているのか?-DNAバーコーディング-』についての研究発表を行いました。 瀬戸内海島嶼に生息するアカネズミを対象に、DNAバーコーディングという手法を用いて糞中に含まれる動植物を検出するという話をしました。生態系を研究する上で、糞には大きな可能性を感じています。
2番目に、生命工学部海洋生物科学科渡辺伸一 准教授が、『瀬戸内海で一番大きな魚はどこで何をしているのか?-バイオロギング-』についての研究発表を行いました。

松永湾に生息するナルトビエイが一体どこで何をしているのかということを、データロガーを使って明らかにした研究発表でした。ナルトビエイから外れ、海面に浮くデータロガーを回収する生き生きとした学生の様子(動画)が印象的でした。 みんな楽しそう!
3番目に、生命工学部海洋生物科学科阪本憲司 准教授が、『瀬戸内海の干潟に生息するトビハゼの遺伝的多様性』についての研究発表を行いました。

干潟の代表的な魚類であるトビハゼの遺伝的多様性をミトコンドリアDNAを用いて解析した成果の発表でした。現在の干潟の減少や氷河期の瀬戸内海の地理的構造がトビハゼの個体群の遺伝的多様性にどのような影響を与えたのかという興味深い話でした。
4番目に、生命工学部海洋生物科学科山岸幸正 講師が、『瀬戸内海中央部の流れ藻生物群集の解析についての研究発表を行いました。

浮き袋を持つ海藻は「流れ藻」として海をながれて異なる場所に移動します。その流れ藻の構成種の系統分類学的研究と流れ藻を生息場所として利用する生物群集に関する話でした。流れ藻で生きる魚やカニなどを整然と並べて見せるところに系統分類学者のすごさを感じました。
5番目に、生命工学部海洋生物科学科北口博隆 准教授が、『瀬戸内海中央部の流れ藻に付着する殺藻細菌』についての研究発表を行いました。

赤潮の原因藻である植物プランクトンを殺すバクテリアに関する研究発表でした。流れ藻の中から殺藻細菌を分離するという話で、海洋生態系で大きな役割を持つ小さな生き物を探索するという大変ロマンのある話でした。
6番目に、生命工学部生物工学科広岡和丈 准教授が、『植物との相互作用に関わる、枯草菌の転写制御機構』についての研究発表を行いました。

土壌中のバクテリアである枯草菌が、エネルギー源として炭素をどのように利用するのかという話でした。植物が持つラムノースに対する枯草菌の転写レベルでの応答を見ることで植物とバクテリアとの共生関係を明らかにするという内容でした。多角的な検証実験が素晴らしかったです。
最後に、薬学部薬学科田淵紀彦 准教授が、『回帰熱ボレリア感染診断法の確立-瀬戸内の野生齧歯類への応用‐』についての研究発表を行いました。

回帰熱を引き起こすバクテリアのボレリアの検出を目的とした診断法に関する話でした。今後、里山に生息するネズミにおけるボレリア等のバクテリアやウィルスの感染率を調査することで、人が野生生物と共生していく上で不可欠な情報が得られるものと思いました。
講演会の最後に、松浦史登 副学長から、「あっという間の3時間だった」と聞いて、安堵した演者は多かったと思います。ご自身のお腹周りとご自宅の畑をイノシシに荒らされた話を例に、脂質代謝と里山里海プロジェクトにコメントされ、会場を盛り上げました。

実は講演会が終わり、お互いの研究の詳細を聞きあった教員の間で、新しい研究プロジェクトに関する議論が始まっています。そういった意味でも非常に有意義な研究成果発表会でした。「研究の面白さを伝えたい」、そして「福山大学の研究を盛り上げたい」という若手教員の気概に満ちた空間であったと思います。

やっぱり研究は面白い!


学長から一言:とても興味深い研究が次々と若手教員から飛び出し、「これはおお化けしそうだ」と希望を抱かせる講演会でした。。。気概を持って取り組んで、福山大学の1つの大きな柱となるPJに成長を!!!