2017/03/22

アジア経済研究所のベトナム経済専門家へのインタビュー!国際経済学科

こんにちは!国際経済学科、学長室ブログスタッフの足立です。最近福山に住むベトナム人が急激に増えていますね。また、日本とベトナムの経済的な結びつきも強まるばかりです。

さて、国際経済学科ではトップ10カリキュラムでベトナム研修を計画していますが、今回は国際経済学科3年次生の宮本勇輝君が、アジア経済研究所で行ったベトナム経済に関するインタビューについてレポートしてくれました。

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2月28日、千葉県にあるアジア経済研究所を国際経済学科の萩野教授とともに訪問し、ベトナム経済の専門家である藤田麻衣さん(写真の女性)にインタビューしました。これは、福山大学「英語で学ぶ国際経済」の授業において、自分がベトナム経済の研究を進めて来たことの一環として行ったもので、学内の教育振興助成金の対象となっています。以下、インタビューの内容をお伝えします。


─どのような経緯でベトナム経済の研究を始められたのですか?―

首都圏にある大学の社会学部を卒業した後、銀行に就職したのですが、しばらくしてもっと勉強をしたくなって銀行を退職し、英サセックス大学に留学しました。そこで開発学の修士号を取得後、1996年にアジア経済研究所に入所して20年になります。修士課程在学中に、市場経済化で注目されつつあったベトナムにひかれ、研究を始めました。入所後はシンガポールとベトナムでの在外研究を経験し、ベトナムの対外経済関係から経済全般、産業、企業へと研究対象を広げてきました。

─どのような研究をされているのですか。―

ベトナムの経済・産業を研究しています。とくに市場経済化やグローバル化の下での産業・企業の成長に関心を持っています。ベトナムの二輪車市場は1997年のアジア通貨危機の影響を受けましたが、その後順調に回復をみせました。それまで自転車で溢れていたベトナムでしたが、2001年、中国から怒涛のように模倣バイクが流入し、市場や生産を一変させるさまを目の当たりにして衝撃を受け、二輪車(オートバイ)産業の研究に着手しました。およそ10年越しで地場や外資(日系、台湾系、中国系)の二輪車企業や部品企業の訪問調査を重ね、2013年に「Exploiting Linkages for Building Technological Capabilities」 として出版するとともに、英サセックス大学から博士号(開発学)を取得しました。


─訪問調査では英語で質問されるのですか。―

英語が通じるのは稀で、多くの場合、ベトナム語で質問しています。日系企業を訪問するだけであれば、外国語は必要ありませんが、企業の国籍を問わずに企業調査をしようと思えば、英語とともに、現地語が必要です。


─ベトナム語は難しいですか?―

発音がすごく難しいですね。長い間勉強してきたのですが、長い間ものにならなくて、少し話せるようになったかな、と思ったのは、ベトナムで企業訪問を始めた時ですね。語学の上達のためには、話さないと埒が明かない状況に飛び込んでいくのが一番ですよ。宮本さんも、ベトナム語を始めてみてはいかがですか?


 ─大学にベトナム語の講座がないのですが、ベトナムからの留学生もいるので、話しかけてみようと思います。ところで、語学の壁を回避するためには、アンケート調査を行うという方法もあると思うのですが、訪問調査でないと分からないことが多いのですか?―

既存の統計や調査がほとんどない対象を取り上げ、大規模アンケート調査では捉えにくいテーマを扱ってきたため、現地での聞き取り調査を研究の中心に据えてきました。ベトナムでは、統計情報も不足していました。本当に自分の知りたい情報、特に、日系、台湾系、中国系、地場の間の競合状況とか、現地での企業間の取引状況などを把握するためには、質問票を活用して全体を理解し、面談して聴き取って行くしかありません。ただ、近年ではベトナム経済についてのマクロデータも増えましたので、それらと現地調査をどう効果的に組み合わせるか、知恵を絞る必要性も増しています。例えば、計量経済学と現地調査の手法を融合して、ベトナムの全要素生産性(経済成長の源泉となる技術革新に相当するもの)を計測してみようという話になっています。

─地場とおっしゃいましたが、社会主義国であるベトナムで、どのように地場企業が発展してきたのでしょうか? 例えば、資金はベトナム国内にあったのでしょうか?―

ベトナムは、社会主義国とはいえ、家内制工業のような小規模な企業は認められていて、例えば、経済発展前には、生活必需品とか、旅行者向けのおみやげとかを村単位で作っていて、その結果、資金の蓄積があったようです。そうしたところが、二輪車産業の発展に対応して、部品メーカーに転換して行きました。また、ベトナム人は独立思想が強く、企業にとらわれず独立する人が少なからずいます。かつて有名企業に勤めていた人ほど知識が豊富で、独立するケースが多いのです。独立して起業するときに必要な資金が、銀行から出てくることもあります。大会社については、ある程度、政治家のリードが必要です。そうした会社は、政府が保有する企業(国有企業)として設立されますが、最近では、国有企業の株式化、日本で言う民営化が進められていて、市中に出て来る株式は、民間で蓄積した資金の投入先になっています。

─最後に、ベトナムというと、TPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋自由貿易協定)に大変積極的だったとの印象があるのですが、これは何故なのでしょうか?―

繊維、靴、農産物といった主要な輸出品で攻勢を図りたいというのが主要な理由です。EUとの自由貿易協定については、ASEANの中で、シンガポールに次いで、タイやマレーシアに先んじる形で締結しました。もう一つ重要な要素は中国です。ベトナムは、2007年にWTOに加盟し、市場開放を図って来ましたが、中国からどんどん商品が入って来て困る、また、歴史的・地政学的にも中国との関係は微妙ですから、中国が入らない、中国に依存しすぎた環境からの脱却のため自由貿易協定を強く望んだという面があります。ベトナムはいまだに課題の多い国ですが、その分、大きく伸びる可能性を秘めています。ところが現在、米国のトランプ政権がTPP参加を見送りましたので、アジア諸国の関心は、中国を含んだ協定である、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、東アジア地域包括的経済連携)やFTAAP(Free Trade Area of the Asia Pacific、アジア太平洋自由貿易圏)に移ってきています。こうした状況の下でベトナムがどうするのか、大変興味深いところですね。宮本さんも、研究対象として取り組んでみて下さい。

─はい。福山大学は、昨年末にベトナム貿易大学と学術・教育協定を締結しましたし、ベトナムでの研修計画もあるようですので、そうした機会も利用して、研究を進めて行きたいと思います。今日は、大変ありがとうございました。―


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学長から一言:宮本君、トップ10カリキュラムの国際経済学科にふさわしい、ハイレベルのレポートをありがとう。。。卒業研究を期待していますよ!!!