2014/05/28

コチコチ人間ふらふらを知る: 教養講座の報告


ブログスタッフの生物工学科 佐藤です。頭はコチコチの方です。今日はそのコチコチの頭でふらふらの話を聞いてきましたので報告したいと思います。


2014528日(水)2時限目 第2回教養講座「ゆらぎと生命機能 ~2千万ワット使うスパコン,1ワットで働く脳~」が開催されました。講師は、大阪大学特任教授で生物物理学者の柳田敏雄先生です。柳田先生は、1分子計測の先駆者で、世界的に著名な研究者です。ノーベル賞候補とも言われております。今日は、生物の本質としての “ええかげんさ” について大変興味深いお話をしていただきました。


こんな調査があるそうです。人間とコンピュータでチェスの試合を行ったところ結局勝負は引き分けだったのですが、その時に使ったエネルギーを算出すると、コンピュータでは5万ワットにもなるのに、人間ではわずか1ワット! 人間の脳はとても効率的なのです。
一方で、処理の速さと正確さを人間とコンピュータで比較すると、圧倒的にコンピュータの方が優れています。人間の脳は、桁違いに のろま で、よく間違い、その記憶容量はDVD2枚程度分にしかならないとのことです。くやしいですが、私が日頃感じる通りです(私は1枚分かもしれない)。



 
では、「少ないエネルギーで、間違いながらも、最終的には答えにたどり着く」という私たち生物の持つ性質を成り立たせているのは、いったいなんなのでしょうか? 柳田先生は「ゆらぎ」が重要であると主張します。コンピュータは全ての機能を正確に発揮させるために多くのエネルギーを使い、ガチガチのシステムをつくる一方で、生物は全体の方向性を決めるだけで、あとは役者(分子)の試行錯誤による「ゆらぎ」に任せて、少ないエネルギーで、自由度のあるシステムをつくるのだそうです。では、その「ゆらぎ」の本質とは?
 
液体中に浮遊する分子は、分子同士の衝突によってランダムに運動します。この運動をブラウン運動と呼びます。このふらふら運動(ゆらぎ)が分子の試行錯誤を導きます。生物は、このブラウン運動を利用することで低いエネルギーコストでそれぞれの分子の働きを達成させています。機械にとってはこのようなふらふら運動は指令の邪魔になりますので、徹底的に除かれなければなりません。生物と機械の大きな違いです。
 
山には登り方がいくつもありますが、山頂はいつも同じ場所です。山頂を目指して、試行錯誤でいろいろな道を通りながら登るのが生物、ルート決めてしまうのが機械といったところでしょうか?生物は「山を登れ」としか指令しませんが、機械は「山を南側斜面から緩斜面を登れ」などと指令します。厳密なシステムを持つ機械にはふらふらと寄り道することは許されません。
 
ヒト型ロボットを作る試みがなされていますが、人間らしさはなかなか完全には表現できないようです。それほど生物のシステムは複雑なものであるということです。もし、ゆらぎ無しにヒト型ロボットを作る場合には、非常に複雑な制御ネットワークが必要で、ものすごく多くのエネルギーを必要とします。やはりゆらぎには、生物らしさを生み出す大きな役割があるということなのでしょう。


柳田先生が「ゆらぎ」の重要性を発見されたのは、生物の中の分子の動きをダイレクトに観る研究を行ったことがきっかけになったそうです。


生物学の基礎で必ず学ぶ項目に筋肉の収縮のしくみがあります。筋繊維と呼ばれる筋肉の細胞の中で、ミオシンというタンパク質の間にアクチンというタンパク質が滑り込むことで筋肉は収縮します。柳田先生は、蛍光色素を使うことで、それまで光学顕微鏡下では観察が不可能であったこの10億分の数mの世界を直接観察することに世界で初めて成功しました(以下、2論文)。その時、明らかになったのが、「ふらふらする分子の動き」です。

Yanagida et al. (1984) Nature 307
http://www.nature.com/nature/journal/v307/n5946/abs/307058a0.html
Yanagida et al. (1985) Nature 316
http://www.nature.com/nature/journal/v316/n6026/abs/316366a0.html

また、脳の研究でもこの「ゆらぎ」を使った理解が進んでいるようです。MRIで脳の活動場所を見ながら、被験者に隠し絵を見せると、その瞬間、過去の経験や記憶に従って、脳における顔に反応する領域、動くものに反応する領域、道具に反応する領域などと活動場所が変化するようです。つまり、無意識下でふらふらしながら、あらゆる可能性を探っているということになります。

 

生物のしくみは大変良くできていると思います。そこには美しさすら感じます。そこにふらふらとランダムに起こるゆらぎが大きく関係しているというのは驚きです。


その昔、生物があまりによくできているので、その生理、形態、生態的な特徴には何らかの適応的な意味があるだろうと考えられ、生物の進化は全て自然選択で説明されていた時代がありました。しかし、現在では、偶然たまたまそのような特徴になったものあると考えられるようになりました。中立進化です。これを唱えたのも日本人なのです。ゆらぎというランダム性が作り出す美しい機能はとても不思議ですが、中立進化と同様に日本人ならではの発想であると感じました。

今回講演を拝聴して、コチコチ人間が生きていくためのヒントを得たような気がします。大変面白い教養講座でした。柳田先生、ありがとうございました!!




学長から一言:おもしろかったですね~。。。柳田先生はとっても若々しいです。。。すでに一度定年を迎えられているのですが、大学院を出たばかりの研究者に間違えられ、「ところで、柳田教授は?」と尋ねられたこともおありとか。。。ふらふらこそ若さの秘訣!?!。。。そういう話じゃないでしょ!