先日、生物工学科では卒業研究発表会が行われ、4年生たちは1号館の大きな部屋で緊張の中、先生たちのあんな質問やこんな質問にも耐え、堂々と研究成果を発表しました。多くのアイデアがあり、多くの発見があったことがわかり、そして熱意の感じられた発表であったと思います。4年生の皆さん、お疲れ様でした。卒業研究発表会の様子はこちら。
さて、たったの1年ちょっとの間に行う卒業研究ですが、その期間は学生と教員の織り成す発見とその驚きに満ち溢れています。その一つ一つにユニークなエピソードがあり、時にその発見は世界を変えることだってあるのです。
私にも忘れられないエピソードがあります。私が福山大学に来て11年が経とうとしていますが、その2年目のことです。ちょうど10年前。私の所属する研究室に配属になった学生の中に私の研究をしたいと言ってきた女子学生が一人いました。当時私は技術職員であったため、正式には学生に研究テーマを与える立場にはありませんでしたが、その学生が卒業研究を二つ行うことを条件に私の研究を行うことを許していただきました(彼女は二つの卒論を書いた!)。そのテーマは「レッサーパンダの進化的由来の解明」です。
レッサーパンダは1825年に分類学的に記載されましたが、その後の解剖学的な研究ではアライグマに近いとか、クマに近いとか、ジャイアントパンダに近いとかいろいろなことが主張され、その分類学的な所属は一向に解決する気配がありませんでした。レッサーパンダの学名のAilurus fulgensには「光り輝く猫」という意味があるのですが、そんな学名からも混乱を読み取ることができますね。
近年、遺伝子解析が盛んに行われるようになってからもその混乱は続き、世界の研究者たちが我こそはと、その進化的由来の解明を目指してきました。遺伝子解析だけを見ても、1993年の最初の論文以降20年の間に約30本の論文が出ています。
私たちは解析する遺伝子の選択にちょっとした工夫をしてこの課題の解明を目指していました。
そんなある日、その学生が実験で遺伝子データが出たので系統樹を解析する方法を教えてほしいと言ってきました。その系統樹を推定すれば、レッサーパンダの類縁関係がわかるかもしれないという緊張の時でした。そして系統解析プログラムの最後のクリックを学生が行うと...
レッサーパンダは独自の系統を持つ!
それが私たちが得た答えでした。イタチ科には59種、アライグマ科には14種、スカンク科には12種と多くの種が存在する一方で、レッサーパンダの系統を受け継ぐのはレッサーパンダただ1種であることがわかりました。3000万年分の価値を持つ種ってことです。
私は興奮して「そうか~、ここに位置づけられるのか~、面白いな~。ね?面白いよね」というようなことを言ったのですが、比較的冷静な学生は「先生を見ている方が面白いです」の一言。200年の謎が解明された瞬間でした。
その後、彼女のデータをもとに書いた論文は2009年12月にアメリカの雑誌に掲載され、世界中の研究者に引用されています。約4年で40件以上の引用があり、その後のより詳細な研究においてもこの系統仮説は支持されています。
文字通り実験室の片隅で達成した目標。それは学生が教育されることではなく、学生とともに研究課題を解決することでした。ある人にとっては小さな成果かもしれません。しかし確実に世界の考えが変わったのです。同時に、教育は目的ではなく結果なのだということを痛烈に感じた経験でした。
福山大学の学生と教員との間にはこんなエピソードがたくさんあるのだと思います。それぞれの教員においては、一つや二つの物語じゃないはずです。今年度の4年生の発表の裏にもこんな物語があったのかなと考えていると、やっぱり教育って面白いなと思いました。
福山大学から世界へ!!
発表を終え、講評を聞く4年生(2014年2月20日)
学長から一言:この教育と研究の融合! これが学生にとっても教員にとっても、大学の教育のエネルギーと楽しさの源泉ですね。。。テンちゃんもかわいいけど、レッサーパンダもかわい~い!
|