本日、今年度第2回目の教養講座が開催されました。
講演者は大原美術館理事長の大原謙一郎先生、演題は「倉敷と大原美術館のメッセージ―事業と文化とシビル社会の心意気について―」です。
皆さんもご存知通り、大原美術館は、福山からもほど近い、岡山県倉敷市の美観地区内にある、日本を代表する美術館です。
今回の講演会には、学生たちに「文化・芸術・人文学が持つ力や意味・意義」を感じて欲しい、地域ごとの「Genius loci(ゲニウス・ロキ)」を掘り起こして欲しいというメッセージが込められていました。
Genius lociとは、ラテン語で土地の精霊・魂のことだそうです。
地域文化から他文化理解まで、幅広い内容のお話で、とても全てをお伝えすることは出来ませんが、文化や芸術、人文学こそが、創造性や生活のクオリティーを高めていき、異文化を理解し融和を図っていくにも欠かすことの出来ないものである、という先生のお話には、多くの方が肯かれたのではないでしょうか?
スタートが「土地の精霊」だったこともあり、私はE・M・フォースターの「文化の価値」というエッセイを思い出しました。
写真は、文化の役割=大原美術館の活動の基本姿勢を示した図を前にお話されているところです。「クリエーションと生活のクオリティー」を高める場であり、「異文化との融和と日本の風格」のために「多文化理解の装置」としての働くのが大原美術館です。
著名な作品の展示だけではなく、全国の 高校生の作品を集めた「高校生現代美術ビエンナーレ」や子どもたちを対象としたワークショップなど、文化や芸術に触れる場として、幅広い活動が行われているそうです。
「今回は美術についての講演会ではないので・・・」と仰っておられましたが、エル・グレコ(本名ではなかったのは初耳でした、「グレコ」は「グレコローマンスタイル」の「グレコ」なので、言われてみれば確かに「ギリシャ」です)の「受胎告知」やモネの「睡蓮」から、浦上春琴・田野村直入の文人画、現代日本を代表するクリエーターまで、多くの作品が紹介されました。
(この間、お話を伺うのに精一杯で、写真を撮影するのを失念してしまいました。)
右の写真は、円山応挙、浦上春琴、田野村直入の作品です。中央の浦上春琴「平安第一楼会集図」には、共に酒を飲み語り合う文人たちの姿が描かれており、この日集まったメンバーの一人、頼春水が賛を揮毫しています。大原美術館は、田野村直入の「澆華園真景図」に描かれた場所にあり、画中の門が現存しています。こうしたところにも、倉敷の歴史や文化の厚みを感じます。
個人的には、大原美術館に展示されている最も好きな作品は、近年メジャーになりつつあるフランスの画家、アンリ・ル・シダネルの「夕暮の小卓」なのですが、残念ながら今回は紹介されていませんでした。
ちなみに、大原美術館のホームページでは、多くの所蔵作品の写真が公開されています。居ながらにして世界中の優れた作品に触れることができるのは嬉しいことですが、その土地に刻まれた歴史と文化を感じるには、やはり現地を訪れるのが一番です。
お話を伺って、久しぶりに倉敷と大原美術館を訪ねてみたくなりました。
(気に入った作品の前から動かなくなる私は、観光やグルメ好きの人々から白い目で見られるのでのんびりと1人で行きます)
学長から一言:土地、土地で文化を蓄積し、それを守り、生きる核とし、さらに発展させる。。。生物進化の頂点に立ったヒトのみが行っている営みなのに、ついつい日々の生活に追われて忘れがち。。。貴重な90分でした。