ワークライフ支援室長の薬学部 杉原教授より、ワークライフバランス研修会の報告です。
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ひろしま子育て支援NPO協議会代表の香川恭子氏を迎えて、10月3日(火)に本学大学会館ICT教室において、ワークライフバランス(WLB)研修会を開催しました。
香川先生は、子育てや介護などのご自身の体験から、働きたいと思っている人が働き続けることのできる社会の実現を願い、活動されてきた方で、これまでの経験を通してWLBの意義について講演してくださいました。香川先生の活動の根底には、子育てに関わる次の世代の若い女性達に「自分と同じ苦労をさせない」という思いがあり、行政に働きかけて、ファミリーサポートセンターの設置や病児保育のサポート制度の導入に尽力されてきました。香川先生のような先人の方々の思いや活動の積み重ねがあり、様々な支援制度の導入や環境の改善、さらに法制度の改正につながり、ライフイベント時でも働き続けることのできる社会環境が整備されてきたのだと改めて実感しました。
しかし、官民を挙げた取組みにも拘らず、日本のジェンダーギャップ指数(2017年版)は昨年度からさらに順位を落とし、144ヶ国中114位です。114位である背景として、日本はどのような課題を抱えているのでしょうか。
大学は次世代を担う人たちの学びの場であることから、率先したWLBや男女共同参画の環境整備が求められる場所ですが、数値目標として女性教職員の割合を掲げていても、何をどのようにすれば到達できるのか、具体的な対策については答えが見いだせない状況にあるように思います。香川先生のご講演から、WLBの是正や男女共同参画の推進を図るには、その根底にある問題の本質を探ることが大切であり、私達一人一人の意識改革なくしてはなし得ないと感じました。
スウェーデンはジェンダーギャップが少ない最も男女共同参画が進んだ国の一つですが、「実は、日本の中に、スウェーデンを上回る女性就業率の県があります。その県はどこでしょうか?」という香川先生からの問いに、「そんな県が日本にあるの?」と驚いた参加者は多かったと思います。
その県は、多世代が同居している家族の割合が最も多い福井県だそうです。このデータは、日本には子育てや介護などにより働き続けることを断念している女性が多く、潜在的女性労働者が多数いることを示しています。
子育てや介護、労働者自身が病者や高齢者の人達は、時間的制約があり、フルタイムで働くことが求められると、働きたくても働き続けることは困難です。これまでの日本社会はこれらの多くの人達が働くことを断念せざるを得ない状況にありました。ところが、これからの日本社会は少子高齢化に伴い急速に労働人口が減少し、労働力不足となることが予測されています。その労働力を補うために、企業がWLBに取り組み始めたのが日本の実情のようです。
しかし、欧米では女性の社会進出を人権問題として捉えています。WLBは労働力確保ではなく、その人がその人らしく生きるために制限のない選択を自由にできるという人権問題として考えられています。日本のジェンダーギャップ指数に係わる問題は、WLBの根底に流れるこの意識の違いに起因しているのかもしれません。
WLBが必要であると理解するけれども、WLBを図っていたら職場が立ちいかないという声も多く聞かれますが、果たして本当にそうでしょうか? 「WLBは一人でできるものではなく、周囲とトータル的にマネージメントされることで図られるものです。ワークシェアやチーム制により、WLBを図りやすい職場環境にしていく努力と理解が大切です。」と、香川先生がメッセージを述べられました。時間的制約のある労働者となることは、だれにでもあり得ることです。
ライフステージでWLBのあり方が変わることを理解することも大切であるとのことでした。例えば、仕事を通して成長する時期はW>L、子育て等の家庭や家族を重視する時期はW<L、仕事上での責任が大きくなる時期はW>L。また、目先の単なる時間や労力の配分だけでなく、長期的な視点で人生のスケジュールを考えて自己研鑚を積むことや、各種支援制度を活用することなども、WLBの工夫として提案されました。家庭内にあっては、家事や育児、介護のシェアについてパートナーとしっかり話し合い、子どももチームの一員として役割を分担することも必要とのことでした。
働きたい人が働き続けることができる社会の実現は、働き続ける人の経済的な安定を意味します。女性や時間的制約のある人が働ける環境整備は経済的に安定となる上でも必要であり、WLBの重要性が考えられるようになりました。
女子学生を中心に教職員あわせて54名の参加がありました。香川先生のお話は、女子学生にとっては人生の先輩からの心強いアドバイスになったと思います。男子学生にとっては、家事や育児、介護の負担をパートナーとしっかり話し合い、シェアし、お互いの生き方を尊重し協力し合う大切さについて学ぶ機会になったと思います。この度の講演会を通して、日本の社会にはWLBの問題において進化すべき余地が多分に残されていることを感じました。
最後に、参加した学生が自由記述欄にたくさんの感想を記載してくれましたので、学生から寄せられた感想の一部を紹介します。
〇ワークライフバランスについて考えたことがなかったので、勉強できてとてもよかったです。
〇将来どのように生活するのかを考えたことがなかったので、今回このような講義を聴くことで少し考えることができてよかったです。
〇就職・結婚のことを今まで考えたことなかったのでいい機会になりました。
〇今の安倍首相の政策がもっと地方の人たちに対して明確に今日の研修会みたいにニュースなどで報道してくれれば一人ひとりの意識が高まり協力的な国になり政治が円滑に進むのではないかと思った。とてもいい話だった。
〇子育てにおいて準備しておかなければならないことが分かってよかったです。
〇今の時代の子育ては、仕事とも両立していかないといけない人たちが多いいと思うので、2人で助け合っていくことが大切だと思います。仕事ができる人が減ってきているので今後の日本はとても不安だと思います。
〇女性にとって子育て妊娠のタイミングは仕事の面を含めて考えると難しい問題だと思いました。
〇WLBがどのようなものかと思っていたけれど話を聞いてみると現在の男女の間で起こる問題や企業での過労などの面をよりよくしようとする活動だということが分かった。このWLBは日本ではまだまだ広まっていないような感じがしました。世界では日本より残業が少ないところはたくさんあるのでそういう面でも企業側がどうにかしてくれたら、この先就職するときにしやすいなと思った。
〇自分が将来働くようになったり、家庭を持つようになったりしたとき、どういう風に仕事と家庭を両立するのがいいかを考えるいい機会になりました。こそだては、母親だけでなく父親も協力することで負担が減るということが分かりました。
〇就職を考える際に、このワークライフバランスがきちんと整った会社を選びたいと思いました。
〇やっぱり子育てするのは大変なので、しっかりサポートをすることが大切だと分かりました。自分の年齢や親の年齢子どもの年齢など先を見越して考えていくことが大切だと思いました。
ワークライフ支援室
室長 杉原成美
学長から一言:とりわけ学生にとって、そしてとりわけ女子学生にとって、考えるよい機会になったようですねッ!たくさんの男子学生にも聴いてほしい内容でしたねッ!香川恭子先生、ありがとうございました!