今回は,8月末から9月はじめにかけて実施された経済学部の海外研修プログラム,フィリピン研修プログラムについて,担当の早川経済学科長からレポートをお届けします。どうぞお楽しみください。
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平成29年度海外研修
経済学部経済学科 早川達二
目的地: フィリピン(マニラ近郊)
実施期間: 8月27日(日)出国、9月3日(日)帰国
実施の目的: フィリピンは近年、世界的にも高い経済成長率を達成するようになりました。所得の不平等、雇用の不足、無くならない貧困などの課題は残っているものの、調和のとれた経済政策が維持される限りにおいては、現況はフィリピンの経済成長にとって好ましいところです。ドゥッテルテ新政権は現存の機能している政策を維持、強化する一方、開発課題の解決のために必要な新しい計画を始めなければなりません。こうしたフィリピンの現状を実地視察しました。アジア開発銀行、JICA、諸企業、フィリピン大学などの訪問を通じて、フィリピン経済の構造と課題、直接投資の現状と投資環境、開発援助の実態と貧困削減への成果などについて全般的な理解を深めました。製造業と、好調なサービス産業の実態を観察することで、新興国経済の発展の中身を考察していきます。日比経済連携協定の存在のために、日本企業のフィリピンへの関心は強いので、こうした現場を実際に見ることの教育的価値は高いと考えます。事前学習と研修に参加してレポートを提出した学生には規定の単位が与えられるものです。
宿泊先: Herald Suites、Makati City、Philippines
旅行費用: 参加学生の旅費個人負担は12万円程度
訪問先:アジア開発銀行、JICA、フィリピン大学、エンデラン大学、諸企業、文化研修(歴史理解)
引率教員: 経済学部経済学科教授 早川達二
参加学生: 経済学部の3年次生5名
8月27日(日) 行程 岡山空港から韓国インチョン空港経由でマニラへ
早くも今回で4回目となるフィリピン研修が始まりました。定刻に岡山空港を出発し、韓国のインチョン空港へは昼の12時頃に到着。長い待ち時間を利用して、各自広い空港で自由に過ごし、身体を休めました。
マニラのアキノ空港へは夜11時ごろの到着。迎えのマイクロバスに乗り込んで、マニラの中心部マカティ市に位置するホテルに全員無事到着。まずは一安心。
8月28日(月) 行程 タガイタイ、Alabang Town Center
高速道路で一路南に向かい、高台から見晴らしの良いことで知られるタガイタイに向かいました。途中、早くもかなりの自然渋滞に巻き込まれます。今回の研修でわかったことの一つとして、今経済好調のフィリピンでは月に1万台ほど車の数が増えているそうです。そして一度増えた車はほとんど無くなりません。道路の数と大きさはあまり急には変わらないので、当然交通渋滞が悪化することがよくわかります。
昼食では、皆でフィリピン料理を満喫。入ったレストランには見晴らしの良い庭があって、眼下のタール湖にある火山がはっきりと見えていました。ここはマニラの中心地よりは少し涼しく感じました。
マカティに戻る途中、発展著しい郊外にあるAlabang Town Centerに立ち寄りました。強い雨が降りましたが、屋内にいて影響はありません。
タガイタイからタール湖を見晴らす
雨のAlabang Town Center
8月29日(火) 行程 キャステム、フィリピン大学
(キャステム)
マカティから南西に進み、福山に本社のあるキャステムの工場のあるカビテ州地域まで行きます。キャステムでは最初に、同社のフィリピンでの操業について、上杉工場長から説明がありました。キャステムはタイでも活発に操業していて、また、アメリカ市場のために南米コロンビアでも工場を建設しましたが、まだ認可待ちで操業を開始できないでいます。キャステムはフィリピンで多様な産業用精密部品を製造しています。最近、医療関係機器の部品の需要が増えています。豊富な労働力を活かして臨機応変に生産を調整できるのがフィリピンの強みです。キャステムの生産の9割は海外で行っています。
説明の後で「ロストワックス精密鋳造」部品の生産現場を見学させて頂きました。ロウのパーツを複数つなげた「ツリー」を作成する様子を一同見学しました。一番迫力あるキャスティングの様子は、労働者が休憩中のため見られませんでした。最後に、日本食弁当を一緒に頂きながら、日本人、フィリピン人社員の方々と会話を楽しみました。フィリピン人職員には、日本での研修の機会は大変魅力的とのことでした。新しい工場ビルが間もなく完成し、記念式典が予定されているそうです。
準備中の新しい工場ビル
上杉工場長による案内と説明
キャステム記念撮影
(右から2人目上杉工場長)
(右から2人目上杉工場長)
高速道路に入り、今度は一路東へとフィリピン大学のあるQuezon Cityを目指します。予想通りの激しい交通渋滞に直面。途中、雷雨となり、すぐ近くの電灯あたりで落雷の火花を見たのには一同驚きました。もちろん車内は安全です。
(フィリピン大学)
フィリピン大学はフィリピンの最大、最古の伝統ある国立大学です。キャンパスは広大で、マニラの貴重な公園としても役立っています。まず、経済学部事務室のRose San Pascualさんが、図書館、講堂、教室など、経済学部の施設を案内して下さいました。続いて、Agustin Arcenas准教授と、経済学部の2年生、3年生のグループと一緒に、フィリピン料理を食べながら交流を行いました。様々な場面で、学生達は活発に活動して、大学に貢献しています。学生間の議論では、フィリピンには開発課題が多いことが認識されました。
その後、皆で車に乗って広いキャンパスのツアーに出ました。多くの学部のある総合大学で、寮やレストランなども含めて生活に必要な設備が整備されています。途中、幹事役の学生が屋台でアイスクリームを買って御馳走してくれました。皆、快活で親切、フィリピン人の良さを身につけた若者達です。
経済学部の図書館
フィリピン大学記念撮影
(左から2人目Arcenas准教授、一番右Rose San Pascualさん)
(左から2人目Arcenas准教授、一番右Rose San Pascualさん)
学生達とキャンパス・ツアー
アイスクリームを御馳走に
8月30日(水) 行程 豊ファインパック、東洋シート、Volenday
(豊ファインパック)
高速道路を南へ進み、ラグナ州サンタロサにある広い工業団地へと向かいます。豊ファインパックは本社が福井県の企業であり、2013年からフィリピンで操業しています。1年前に本社から来られた岩ケ谷マネージャーと、赴任されたばかりの角本さん、オペレーター2名、総務1名の計5名の人員と外注ドライバー1名の体制をとっています。
会社は包装資材を生産して日本へ船便で送っています。やはりフィリピンに進出している村田製作所は特に重要な取引先です。例えば、さびを防ぐことができる高品質の包装資材を製造しています。
岩ケ谷さんと角本さんが、会社の現況を説明されました。若い労働力が豊富であることが、フィリピン進出を決めた重要な要因でした。フィリピン人労働者は素直でフレンドリーである一方、プライドが高い面もあるので、フィードバックの与え方は要注意とのことです。電気代が高いことと、政策当局のルールが急に変わったりする点には苦労されています。フィリピンに来て1年の岩ケ谷さん(女性)がこの工場を運営されていることに、学生達は刺激を受けたようです。
豊ファインパック記念撮影
(左から3人目岩ケ谷マネージャー、一番右角本さん)
(左から3人目岩ケ谷マネージャー、一番右角本さん)
(東洋シート)
東洋シートもサンタロサの工業団地敷地内で操業しています。社長の瀬尾さんが我々一同を歓迎して下さいました。まず、兼平シニア・マネージャーが会社の歴史を説明されました。フィリピンには1999年に進出し、当初は主にフォードに座席を納入していましたが、フォードが2012年に撤退したために、取引先を多様化してきています。従業員は現在309人で、そのうち132人が正社員です。海外での生産には力を入れています。この工場では主に自動車用のシート・カバーを生産して日本に輸出しています。日本のマツダ・アクセラのシート・カバーは東洋シートフィリピン製だそうです。また、映画館の椅子も製造して、フィリピン国内で販売しています。
フィリピン料理の昼食を頂いた後で生産ラインを見学しました。きめ細かい手作業のできる豊富かつ調整可能な労働力を活かしています。素材が柔らかいので、縫う工程では、大型機械よりもミシンを使った手作業の方が正確だそうです。
増崎シニア・マネージャーによる生産ラインの説明
東洋シート記念撮影
(右から1人目Naer Pizarroマネージャー、2人目瀬尾社長、3人目増崎シニア・マネージャー、一番左兼平シニア・マネージャー)
(右から1人目Naer Pizarroマネージャー、2人目瀬尾社長、3人目増崎シニア・マネージャー、一番左兼平シニア・マネージャー)
(Volenday)
Volendayは、IT、自前のデータベースの活用などにより、採用作業サポート、人事戦略、ITサービスなどの企業のbusiness process outsourcing(BPO)を行う企業であり、輸出企業向け優遇措置のあるPEZA(経済特別区)の枠組みを活用しています。(Volendayはサービスを輸出。)Julio Endaraディレクターによると、ヒューストンの事務所は既に閉鎖して今はマニラでだけで活動していて、今後シンガポールへの拡張を目指しているとのことです。
英語を話す若い豊富な労働力を背景に、BPOはフィリピンの重要産業の一つとなりました。Endaraディレクターは、Volendayの全体的な業務内容を説明してくれました。Volendayは、豊富なデータベースを基に、会社の求人のためのサポートなどを提供できます。例えば、フィリピンに最近進出した中国企業Huaweiに様々なサービスを提供しています。一同、フィリピンにとって重要なサービス産業の現場を観察できました。
Endaraディレクター(左から2人目)と記念撮影(Volenday)
8月31日(木) 行程 JICA、エンデラン大学、NEC Philippines
(JICA)
マカティにあるJICA事務所を訪れました。JICAによるフィリピン支援の取り組みについて浅田NGOコーディネーターと柴田所員から大変詳しい説明を頂きました。ベトナムのハノイと同様、地下鉄のプロジェクトが話題になっていたので伺ったところ、まだプランの検討段階でルートも決まっていないとのことです。まだまだマニラに地下鉄ができるまでには残念ながら相当な年月がかかりそうです。
一同、フィリピンの経済と多くの開発課題についての理解が大いに深まりました。参加学生達はいろいろな質問をして活発な議論となりました。現在53名が派遣され、フィリピンで活発なJICAの青年海外協力隊の活動についても質疑応答がありました。
浅田NGOコーディネーター(前列右から2人目)と柴田所員(前列左から2人目)を囲んで記念撮影(JICAフィリピン事務所)
JICAを出た後、Market Marketというショッピングモールに立ち寄って昼食。地元高校生が特に多く、フードコートでは座席を確保するのにかなり苦労しました。交通渋滞と同様、マニラの人口密度の高さを感じる場面です。
(エンデラン大学)
エンデラン大学は、マニラの中心、タギグ市Fort Bonifacioに位置する私立大学。国際ホスピタリティ・マネジメント、経営学、起業、経済学のプログラムがあり、キャンパスには教育用のレストラン、キッチン、ホテル客室なども整備されています。留学生向けの短期・長期の英語研修プログラムも充実しています。キャンパスのすぐ近くに学生寮があり、マニラの交通渋滞に悩まされずに勉強ができるのは便利です。ディレクターのLoida Flojoさんとアドミッション担当職員のMarla Aquinoさんがキャンパスを案内して下さいました。
今大学で学んでいる日本人を含む様々な留学生達と交流する場面もあり、更には、1時間ほど英語の授業を実施して下さいました。参加学生によると、授業は楽しかったようです。
エンデラン大学記念撮影
(一番右Flojoディレクター、一番左Aquinoさん)
(一番右Flojoディレクター、一番左Aquinoさん)
英語の授業に参加
(NEC Philippines)
マカティにあるNEC Philippinesの事務所を訪れました。新しい場所に移動していて、前より広くなっていました。いつものように副社長の澤田さんが大変親切に対応して下さいました。NECは1967年にフィリピン事務所を設立して、日本のODAに関連した業務を開始。NECの現在の重点分野はICT技術を軸とした空港の諸設備、通信用の海底ケーブルなどの社会インフラです。自然災害の多いフィリピンで、JICA主導の日本のODA事業である広域防災システムの開発プロジェクトでは中心的な役割を果たしています。他方、商業インフラではコンビニのPOSシステムなどを得意としています。
この事務所では120人が働き、内3人が日本人です。工場もあるので、フィリピンでは計50人のNEC日本人職員が勤務しているそうです。NEC Philippinesは、社会貢献活動として、毎年5人のフィリピン人に奨学金を提供しているとのこと。
広くなった事務所内
澤田副社長(一番右)を囲んで(NEC Philippines)
9月1日(金) 行程 アジア開発銀行(ADB)、Mega Mall
(アジア開発銀行)
去年創立50周年を迎えたアジア開発銀行(ADB)の本部はマカティ市の隣のマンダルーヨン市に位置しています。
中庭で記念撮影をした後で、まず Principal Planning and Policy Specialistである冨永さんがADBの概要とスタッフになるための準備などについて丁寧に説明されました。冨永さんは以前JICAや世界銀行でも長年勤務されていたので、経済開発全般に対する深い知識と広い経験をもとにADBがいかに貧困削減に取り組んでいるのかを大変わかりやすく解説して下さいました。続いて、Principal Human Resource SpecialistであるDean Atkinsonさんが、ADBの採用などについて説明されました。international staffの場合、やはり他での勤務経験を経てから入る職員が多いので、採用時の平均年齢は35歳とのことです。明るい性格で、いつも採用面接をされているAtkinsonさんには、学生達も多くの質問をし、これはアクティブラーニングになったようです。
次に、ADB本部の建物の中をFacilities Planning and Management OfficerのErwin Casaclangさんが案内してくれました。屋上にある多くのソーラーパネルや、植物用のリサイクル水のタンク、リサイクル用の紙の整理の様子を見学できました。
その後カフェテリアに入り、私の元同僚の方々と一緒に昼食をとり、交流を行いました。シニア・エコノミストの谷口さんとディレクターのVicky Tanさんが参加されました。谷口さんは経済開発関連のリサーチを活発に様々な国で展開されていて、参加学生達は経済学の有用性と応用可能性を強く認識できたようです。
中庭で記念撮影
説明会場へ
屋上でソーラーパネルを見学
ADBのカフェテリアで
(後列一番左谷口シニア・エコノミスト、前列一番右Tanディレクター)
(後列一番左谷口シニア・エコノミスト、前列一番右Tanディレクター)
(Mega Mall)
その名の通りの大きなMega MallがADBのすぐそばにあります。いつも多くの買い物客で賑わい、国内消費が常にフィリピン経済を押し上げている様子が一目で理解できてしまいます。
また、フィリピンではバスケットボールが大人気ですが、モール内の会場で、3-on-3バスケットボールの試合があって、大いに盛り上がっていました。
Mega Mallはいつも拡張されている
3-on-3バスケットボールの試合
9月2日(土) 行程 イントラムロス、Mall of Asia
(イントラムロス)
マニラ旧市街にあるイントラムロス(300年間以上続いたスペイン統治時代に作られた城塞都市)周辺地区を訪れました。サンチャゴ要塞、フィリピン独立運動の英雄ホセ・リサルの記念館、マニラ大聖堂、最古のサン・アグスティン教会を訪問し、お土産店にも入りました。
パシッグ川
マニラ大聖堂
マニラ湾
(Mall of Asia)
イントラムロス地区を出た後マニラ湾に沿って南へ進むと、ほどなく巨大なMall of Asiaに到着しました。土曜日で、多くの客が往来しています。中には、買い物というよりは、冷房を求めて来る人もいます。フィリピンは電気代が高いので、エアコンを持たない人は多いとのことです。
モールも重要なサービス産業の現場であり、多くの雇用が創出されていますが、多数の店員が溢れていて暇そうにしている光景をよく見かけます。雇用があるという点は良いのですが、やはり製造業に比べて生産性は疑問です。日本やアメリカのデパートなどでは、そもそも店員数はもっと少なくて、暇そうな店員ははるかに少ないですから。
Mall of Asiaの入り口
9月3日(日) 行程 マニラから韓国インチョン空港経由で岡山空港へ
帰りの飛行機便は午前0時30分発で、早朝にインチョン空港に着きました。少しの待ち時間を置いてから、定刻に無事岡山空港に到着できました。
短い研修旅行ではありますが、連日活発に動きながらマニラ周辺の実情を観察して、フィリピンの経済と開発課題についての理解が皆深まったと思います。フィリピン大学の学生など多くの人々と交流する機会があり、いろいろな刺激を受け、日本で経済学を学ぶことの意義を再認識できたと期待しています。企業、JICA、アジア開発銀行などにおいて、経済学の知識が様々な形で活用されている現場を見ることで、学生の経済学や諸国の開発についての関心と問題意識が高まったなら、研修旅行の学習効果が高かったと言えるでしょう。また、出発前にいかにマニラの交通渋滞がひどいものであるかをしばしば説明しましたが、やはり自分自身で体験してみて初めてその深刻さを真に理解できるのだと思います。
雨は毎日降ったものの、大きな混乱もなく、無事に研修旅行が終わって良かったと思います。この研修の実現のためにお世話になった多くの方々に心から感謝いたします。
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学長から一言:盛りだくさんの研修でしたね。。。指導の早川教授には、まずは、お疲れさま!そして、学生の皆さん、このフィリピン研修で学んだことをよく咀嚼して、知識を組み立て直し、今後の学習にしっかり生かしましょう!!!